広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.30

【蔦屋書店・江藤のオススメ 『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』貴志謙介/NHK出版】
 
 

太平洋戦争が終わった1945年から1946年、いわゆる戦後ゼロ年。

実はこれまで多く語られることがなかった1年です。

 

戦後の日本の驚異的な復興や、日本企業の世界的な躍進、高度経済成長期への突入、といった話題については今まで何度も語られてきて、人々の記憶にも残りやすいのですが、戦後ゼロ年については今まで闇の中だったと言ってもいいでしょう。

しかし、実は現代の日本の土台はほとんどすべてこの戦後ゼロ年に作り上げられたものなのです。

 

一体誰が、誰と、どのような意図を持って、どのような目的のために、どうやって。

 

その謎を、戦後ゼロ年の闇の中から引き上げてみせるのがこの本です。

それはとても衝撃的で、ある意味残酷な事実ですが、知らないで済ませられる問題ではないと思います。

 

日本にはこの時代の公式記録はほとんど残っていません。当時日本はGHQにより占領されていました。そして、GHQは文章も映像もすべて検閲をして、不都合なものは公にはせず、日本の庶民には知らせず、秘密文章として隠していたのです。また、日本軍の機密資料も占領軍が管理していました。

しかし、近年になって、情報公開が進み、CIA文書やGHQ検閲記録などの資料が発掘されたのです。

 

まず私達が衝撃を受けるのは、終戦と同時にブラックホールに吸い込まれるように消えてしまった、日本軍が持っていた膨大な軍需物資です。実は敗戦直後の日本には、経済を優に二年間支えるだけの物資があり、食料も大量に備蓄されていたのです。しかし、敗戦後の日本では餓死者が多くでて、民衆は飢え、ヤミ市で危険を覚悟でものを買わなければ生きていけないような状況でした。

 

一体これらの物資はどこに消えたのか。

 

本書を読んでもらいたいのですが少しだけ種明かしをすると、国民から接収して作ったこれらの軍需物資は、本来は国民のものですが、ほぼすべて日本の軍や警察、役人によって横領されたのです。それらはすべてヤミ市へ流れ、軍人や高級官僚、軍の御用商人を肥え太らせたのです。恐ろしい、許されざる事実です。

 

また、A級戦犯たちが罪を問われずに釈放されている理由も理解できることでしょう。

占領軍は、アメリカの利益を最優先で日本を作り変えていったので、利用できる人物や物は道義に反しても最大限に利用しています。

当時の右翼の大物がのし上がっていったのも占領軍との癒着からです。そして、その流れは現在日本の権力の構造に連なっているのです。

 

その他現在に連なる、政治、経済、風俗、芸能、それらの土台の全てはこの戦後ゼロ年に作られています。

 

この本に書いてある事実を知らずに現在の日本の状況をあれこれ考えても、本質的なところが理解できないかもしれません。

 

私には、戦後ゼロ年を知らずに現代日本を語ることが実は非常に危険なことであると、知ってしまった今となっては、はっきり言うことができます。

 

はたして

知らずに目も耳も塞いで生きていくほうが幸せなのか

知って怒りを感じるべきなのか

知らないことは罪なのか

 

 

 
 

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