広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.20

【蔦屋書店・藤原のオススメ 『かなわない』植本一子/タバブックス

 

私が蔦屋書店で働くキッカケをくれた大切な本があります。

『かなわない』 著 植本一子さん

 

数年前、この本と出会った場所は美容院。カラーをしてもらっている時に読んだ女性雑誌の1ページのショッキングな本の内容と植本さんの写真が目に止まりました。

親子ほどの年齢差の夫、2人の娘、好きな人のこと、母親との確執。

もともと、エッセイやノンフィクションが好きな私は、本のタイトルと著者名を頭に入れて、すぐさま本屋に直行しました。

1軒目には無く、2軒目で棚に差してある一冊を見つけ即購入しました。

家に帰り読み始めたら止まらなかったのです。

 

その日以来本屋に行くたびに、『かなわない』を検索しました。置いてある本屋は少なく、私の中で『かなわない』が置いてある本屋=良い本屋になりました。蔦屋書店で植本さんの本を置くこと、知ってもらうこと、それを仕事にしたいと思いました。

 

どのような内容なのか少し紹介したいと思います。2011年から2014年までの日記が主になっており、間に短いエッセイや詩、手紙の内容、メールのやりとりなどが綴られています。

2人の子育て、夫の石田さんは協力的なのに何故かイライラする、1人になりたい、母との距離感。やがて、植本さんに好きな人ができます、石田さんにもその事を伝え、離婚を頼みます。好きな人と別れてもなお離婚を頼む植本さん。やがて、石田さんからの言葉で自分が離婚という形をとることで、好きだった人にまだなんとか振り向いてもらおうとしていることに気付かされます。石田さんは全てを見抜いていたのです。精神状態も崩れ心療内科に通ったり、好きな漫画家の先生にメールで相談する内容も書かれいます。

 

『かなわない』のあと、『家族最後の日』『降伏の記録』を出版。

 

『家族最後の日』は、母との絶縁、義弟の自殺、夫の癌の三部作です。

本のタイトルから私が感じたことは、母と絶縁したことで今まで所属していた家族との関係は終わり、これからは石田さん、2人の娘さんと自分の家族を作っていく。その決意表明だったのではないかと。

 

『降伏の記録』は日記形式で日々の暮らしと石田さんの闘病生活が書かれています。

読み進める合間に、植本さんが撮られた写真が載せられていて、時に笑顔になり時に切なくなり、この本をより一層奥深いものにさせています。

最後の十数ページ、白いページがあります。それこそが、降伏の記録です。死へ向かう夫へのメッセージです。植本さんの大事な想いを綴られているのです。

 

実は植本さんの本には賛否両論があります。

実際に読んでみて、人それぞれ思う気持ちがあると思います。

ここでは、私が思ったこと、感じたことを書こうと思います。

 

一言でいうなら、素晴らしい本です。

こんなにも自分の行動、言葉、迷い、哀しみ、抑えきれない苦しみを正直に綴ったエッセイはありません。普通エッセイは、綺麗なところ、可愛らしいところ、書いてもちょっとドジでお茶目に見える書き方だったりします。だって、エッセイです。周りからの反応や目も気になります。でも、植本さんの文章は「ここまで書いて大丈夫?」と心配してしまうほど。でもそれこそが大事なところ。心に響いて響いて仕方ありません。それは共感する部分が私にあるからでしょうか?いや、誰しも人には言えないけど重なる部分があるのではないか?と思うのです。

植本さんの眼は、高精度なカメラレンズのように、日常の些細なことでも見逃さず写し出します。恐れることなく。そして、見たもの、感じたことを教えてくれました。

私にとって大切な本になったことに、間違いはありません。

 

先日嬉しいことがありました。

新しく入ってきたスタッフさんが各カウンターに挨拶に回られていました。その時に彼女が私に話してくれたのです。植本さんの本を買いに来た時にたまたま私が対応したらしく、その時、ここで働こうと思ったと。私は、まさか彼女の口から植本さんの名前が出てくるなんて思いもしませんでした。嬉しかったです。うちの書店に植本さんの本を探しにきてくれたこと。そして、ここで働いてくれたこと。

別のスタッフさんは、今まで読んだことのない衝撃的な世界だったと言ってくれました。

読んでよかったよと。

 

是非、あなたも読んでみてください。

この本は、ある家族の実話です。

感想に正解はありません。

 

2018年1月24日 

石田義則さん    永眠されました。

 

HPに書かれていた この一行

 

        喪主   植本一子    妻

                             

どれほど嬉しかったことか。

涙が止まりませんでした。

 

 

 

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