広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.16

【蔦屋書店・犬丸のオススメ 『時間とはなんだろう』松浦壮 / BLUE BACKS

 

時間とはなんだろう  ~最新物理学で探る「時」の正体~

 

今日もわたしの一日は、目まぐるしい。頭の中で、優先順位と効率を考えながら行動する。しかし、なかなか思い通りにはいかず、時間だけが過ぎ帰宅時間となることが多い。

「あー、今日も時間が足らなかったなー。時間が欲しいなー。誰か時間くれないかな。時間貯金とかできたらいいのに。」

と、できもしないことをぼんやりと考えながら電車に揺られる。

 

時間…時間…とつぶやきながら、考えてみる。

 

説明は難しいけれど、過ぎていくのが時間ではないのか。日常生活では、時計の進行、人の動き、太陽の傾き、季節のうつりかわり、星の位置などで時間が経過していくのを知る。今が過去になっていく。それを繰り返すのが時間ではないのか。そして時間は、ある一定の方向(未来)へ進んでいるようにも感じる。しかし、それが時間なのかと言われると、なんだか、空をつかむようにもどかしい。

 

時間とは、そもそも何なのか。

 

本書「時間とはなんだろう」は、今、わたしが知りたいこと、そのままのタイトルだった。「時間とはなにか」という、シンプルにみえて考えれば実に厄介な疑問をほぼ数式抜きで理解できるように書かれている、物理学の観点から探る書籍だ。著者の松浦壮さんは、普段から自然科学を専門としない、いわゆる文系と呼ばれる学生を対象に物理の講義をされているので、数式が苦手なわたしでも安心だ。

 

目には見えない時間というものをつかみたい。

 

それには、ごくあたりまえの存在である空気や水がどんな元素からできていて、なぜ地球にあるのかを紐解くように、目には見えないが、ありふれた存在である時間も、同じように背後にどんな理が連なっているのかを知ることが必要になってくる。

導入も身近な話から始まり、ガリレオとニュートン、相対性理論、量子論と進んでいく。時間という切り口から歴史をたどり、一冊で現代物理学を俯瞰できる構成になっている。

例えば、第3章まで読み進めば、宇宙全体に共通の時間が流れ、時間は可能性が多い方向へ一方向に進んでいくプロセスだということが理解できる。第4章、第5章では、時間は光や重力とも切っては切れない関係で、第7章まで進めば、波でも粒子でもある、量子のやっかいな振る舞いを知る。

最終第8章では、まだ研究の段階だが量子重力や超弦理論の話しへとつながるのだ。

これまで、うまくつかみきれなかった時間だが、読み終えた後では、宇宙全体でいえば物質の運動が、ミクロの世界では量子場の振動が時間を作りだしていると理解する。

 

一冊の本を読むことで、新たな視点を獲得した。これまでは、正体のわからない時間というやつが、わたしを縛りつけコントロールし、ドンドン未来へ運んでいってしまうような感覚だったが、実は、この宇宙全体を構成している全ての物質の運動エネルギーが時間を生み出していたのだ。宇宙誕生と共に時間が生まれたというのも本を読み終えた後ではしっくりとくる。物質がなければ運動エネルギーも発生しない。宇宙という物質がある場こそ時間を生み出すのだ。時間という壮大な話は、量子の世界にも潜んでいる。量子の振動もミクロの世界から時間を生み出している。

 

宇宙を構成しているわたしたちの運動エネルギーこそ時間を生み続けているのだ。

宇宙を構成する一員であるわたしから時間が生まれるようにも感じてしまう。そして、私を構成する量子もまた時間を生み出す。時間とは、なんと愛しい存在なのか。

 

「科学はひたすら世界を理解しようとする努力だ。科学者を駆り立てているのは、快適さや便利さではなく好奇心なのである。」(『宇宙創成』 サイモン・シン著)

人は「知りたい」という欲望から逃れることは出来ない。古代から、人は身の回りのありふれたことに疑問を感じ、仮説をたて実証してきた。それによってテクノロジーが進歩し、更なる仮説が実証される。

これまで数多くのことが実証されてきたが、わたしは、それをどれくらい知っているのだろう。わたしも「知りたい」という欲望がある。

 

ふと、本棚に目線を移す。そこには、まだ読んでいない本がざわめいている。我先に手にとって欲しいと、読んで欲しいとさわさわと、わたしを呼んでいるようにみえる。

読み終わった後、わたしは、どんな視点を新たに手に入れているのだろう。

 

そして、表紙をなでながら思うのだ。

「あー。読書する時間が欲しいなー。誰か、時間くれないかなー。」と…

 

松浦 壮(まつうら そう)

1974年生まれ。1998年、京都大学理学部卒業。2003年、京都大学大学院で博士号(理学)を取得。2016年から慶応義塾大学教授。研究テーマは超弦理論と数値シミュレーションによる超対称ゲージ理論の解析。

 

 

 

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