広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.23

【蔦屋書店・江藤のオススメ  水木しげる漫画大全集 ゲゲゲの鬼太郎(1)水木しげる/講談社 

 

 

水木しげるは妖怪である。

 

現在また新しい鬼太郎シリーズがテレビで放映され子どもたちを虜にしている。

今期は初めてのアニメ化から数えると第6シリーズ。おばけは死なないので何度でも何度でも復活することができるのだ。

 

しかし、水木しげるは惜しまれつつも 2015年に亡くなってしまった…のか?

 

 

私は水木しげるが大好きで、水木しげるの漫画をすべて読みたいと思い、ひたすら古本屋を回り過去の作品を集める。というのを趣味としていた時期があったのですが、その時に気づいてしまったことがあります。

 

おそらく、水木しげる作品をすべて読むことは不可能なのではないかと。

 

なぜなのかご説明しましょう。

まず、作品量が膨大すぎます。

貸本時代から書いているから?いやいや、その前には紙芝居も書いています。若い頃から、お亡くなりになる直前までずっと書き続けていますから。

 

水木しげる名義の作品以外もある。

ごく初期には別名で書かれている作品もあるのです。

 

失われた作品がある。

マニアの間では有名な話ですが、貸本として書かれた鬼太郎ものの原稿を出版社が失くしてしまい、幻となった話があります。これはもう読めません。

 

バージョン違いが多数ある。

鬼太郎も掲載誌を変え、何度も書かれています。貸本版もあれば少年マガジン版もあります。悪魔くん、河童の三平もそうですし、短編でも同じテーマで何度もリライトされているのです。

 

このようにコンプリートすることは不可能とも言えるほど難しかったのですが、ほぼ完全にすべての漫画作品を読むことができる事になったのです!

という情報はお話の最後に。

 

話を戻しますと、たくさんの水木しげる作品を読んでいるうちに、私はあることに気づいてしまったのです。

水木しげるが作品の中に仕込んだ、ある大きな仕掛けに。

 

 

水木しげる作品で私が大好きなシーンがあります。それは食事のシーンです。登場人物たちは、もりもりと、非常に美味しそうに食事をします。普通のご飯だけでなくちょっと変わった食べ物も。

 

特にファンの間で人気が高いのが、「ひとだまの天ぷら」です。ぽわ~んと飛んでいるひとだまを虫取り網で捕まえて、メリケン粉をつけて油であげるのですが、なんともいえない愛嬌のある形をしていて、しかもとても美味しそうです。

 

作品でいうと、「人魂を飼う男」というお話に出てきます。初出は1962年で貸本です。

青白いのっぺりとした顔の男が墓場で夜中に人魂を捕まえるのです。それを水を張ったタライに入れて保管して、メリケン粉をつけて天ぷらにして青年に食べさせます。

すると、人魂を食べた青年の顔がぽわ~んと口から抜けていくのです。青年はのっぺらぼうとなってしまいます。というお話。

 

たくさんの作品を読んでいると、ひとだまの天ぷらにまた出会えます。

再登場は1966年の中1コースに載った「顔ぬす人」というお話、これは「なまけの与太郎」というシリーズの一遍です。

与太郎たちが夜中に墓場で涼んでいると、虫取り網でひとだまを採っている変な男に遭遇します。男は捕まえた人魂をやっぱり水を張ったタライに入れて、メリケン粉をつけて天ぷらにします。与太郎はとめるのですが、友人は美味しそうな天ぷらを我慢できずに食べてしまうのです。男の家を出たとたん、口からぽわ~んと顔が抜けてしまいます。友人はのっぺらぼうになってしまうのです。というお話。

 

まだ続きます。1968年の週刊少年マガジンに載ったゲゲゲの鬼太郎でのエピソード「のっぺらぼう」

ここではついに妖怪のっぺらぼうが登場します。さて、妖怪のっぺらぼうは何をするのかといいますと、おなじみのひとだまの天ぷらを作るんですね。そしてねずみ男に食べさせてしまいます。どうなるか、もうみなさんならおわかりになりますよね。ねずみ男は顔を奪われて、のっぺらぼうになってしまいます。

 

さて「ひとだまのてんぷら」きっかけで集めたこの3つのお話。共通点は「のっぺらぼう」です。いったいなぜ水木しげるはのっぺらぼうのお話を何度も繰り返したのでしょう。

 

もともとのっぺらぼうという妖怪が、ある意味メジャーになったきっかけといえば、ギリシャ生まれの日本民族学者、ラフカディオ・ハーン、またの名を小泉八雲が書いた有名な本『怪談』の中の「むじな」というお話です。

 

ある男が、日暮れに寂しい道を歩いていると若い女がしゃがみこんで泣いていた。心配して声をかけるが、振り向いた女には目も鼻も口も無い。驚いた男は逃げ出して、蕎麦屋に駆け込む。蕎麦屋の主人にこんな恐ろしいことがあったんだ、と話をしようとする。すると主人が「こんな顔ですかい」と振り向いた顔にも目も鼻も無い。男は驚いて気を失ってしまう。むじなが男を化かしていたのだ。

 

ここでの「むじな」はキツネやタヌキとされていたりしますが、「のっぺらぼう」という名称は出てきません。「のっぺらぼう」の語源としては「ぬっぺほふ」というほんのりピンク色をした肉の塊のような妖怪からではないのかという説もあったりしますが、それはまた別でお話ししましょうか。

 

この、一度驚かされて、さらに逃げ込んだ場所で、もう一度同じく驚かされるというお話のパターンは「再度の怪」という形式です。怖い話などでも定形としてよく使われる、繰り返し方式の物語です。

 

さあ、もうおわかりでしょうか。

 

水木しげるは「再度の怪」であるのっぺらぼうのお話を数年間にわたり何度も描くことで、漫画という紙に描かれたメディアを使い、その物語の外にはみ出すような怪を現出させようとしていたのです。

妖怪の親玉である水木しげるは、のっぺらぼうを現実世界に使役しようとしていたわけです。

 

鬼太郎が何度もアニメ化されるのも、もちろん妖怪水木しげるの力によるものです。

その証拠に、日本初のTVアニメである「鉄腕アトム」の放映の3年前。漫画がテレビになるなんて誰も思わなかった、1960年の貸本作品『鬼太郎夜話』の中で、ねずみ男にこんなセリフを言わせています。

 

「今やテレビや映画にひっぱりだこになってコッテリもうかるぜ」

 

私にはどうしても、水木しげるが亡くなったとは思えないのです。

だっておばけは死なないんですから。

 

きっとどこかで復活するに決まっています。

 

 

最後になりましたが、水木しげる作品のほぼすべてを読みたいあなたへ、お約束していた最高の情報を。

講談社から、現在もっとも水木しげるに詳しい人物「京極夏彦」が全面監修した『水木しげる漫画大全集』が出ています。

第1期から第3期までで全103巻、更には補巻も出ていますので、もっと多くなっています。1冊がだいたい2500円ぐらいという大ボリューム。

初めて収録される作品も多数。

デジタルリマスターで蘇る美しい原稿。

なんとカラーページも再現されているのです!

 

 

水木しげるが復活するその日まで、のんびり読んで待つのはいかがですか?

 

 

 

 

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