広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.53

【蔦屋書店・犬丸のオススメ おかしな本棚』クラフト・エヴィング商會朝日新聞出版

 

 

これは本棚の本です。本の本ではなく、本棚についての、本棚をめぐる、本棚のあれこれを考える本。

 

こんな、一文から始まる本。

これが『おかしな本棚』という本です。

 

ページをめくっていきます。

 

最初は、「ある日の本棚」。

見開き2ページの上半分に並べられた本の写真。下半分には、それぞれの本の題名と著者、出版社が、縦書きに書いてあります。右から、『時間のかかる読書』『本は読めないものだから心配するな』『山東京傳全集 第一巻 黄表紙1』『パンドラの厘』…『なやまない』『琵琶法師』…『二年間の休暇』。この本棚に入っているのは、26冊。

上半分の写真に目を戻します。本棚ですから、並んでいる本が見せているのは、ほとんどが背表紙。黒い背景に静かに凛とした様子で立っている本達。背の高さもデコボコして、時たま横に寝転んでいたり、表紙を見せていたり。ページ数も様々ですので、気軽に手に取れそうな文庫本もあり、きっとこれは読むのに時間がかかりそうだなと思わせるような重みを感じる本もあります。本の背表紙がわたしを見つめ、わたしも背表紙を見つめ返します。

 

読んだことのない本の背表紙は、想像力を掻き立てます。どんな、話なんだろうか。こうかな、ああかな。字は小さいのだろうか。難しい内容なのかな。美しい写真や挿絵が入っているかもしれません。本屋の棚の前でも、ほぼ直立不動で背表紙を見つめながらニヤニヤと空想に励んでいるわたし。危険です。要注意人物です。我に返り、あわてて本を手に取ります。

この並べられた本の写真だけでも、わたしの空想を何時間でも満たしてくれます。

 

次のページに進みます。

 

次の本棚は、「森の奥の本棚」そして次、「金曜日の夜の本棚」さらに「美しく年老いた本棚」。これらの本棚に並んでいる本は、いったいどんな本なのか、興味しかありません。茶色く色あせた古書の並びも美しく、これらの本の文章は過去からやって来た言葉だけれど、読んでいないわたしにとっては、これから先、読むであろう未来を想像させるのです。

そして、並んでいる本の中にはどうやら実在しない何冊かの本も混じっているらしいのです。なんというこだわりでしょうか。本をつくるために、実在しない本をまず作るとは。

 

この本を制作したクラフト・エヴィング商會は、吉田篤弘さんと吉田浩美さんご夫婦のユニットです。二人で、著名な方々の本のデザインや装幀をし、また自らも数々の本を制作。それらの本は、それぞれ「装幀した本棚」「クラフト・エヴィング商會の本棚」に入っています。

「クラフト・エヴィング商會の本棚」をのぞいてみると『らくだこぶ書房21世紀古書目録』(第32回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞)『どこかにいってしまったものたち』『ないもの、あります』『すぐそこの遠い場所』などなど。どんな本なのでしょうか。空想が止まりません。『おかしな本棚』も並んでいます。

 

『おかしな本棚』には、それぞれの本棚に吉田篤弘さんによるエッセイが添えられています。これがまた、素敵です。どの本棚のエッセイも、並べられている本の解説はほとんどなく、あるのは、その本とのエピソード。本を読むことについて。本棚の中の本の話。

 

いついつまでにこの本を読まなければならない、というのは大変な不幸です。

いいねぇ、こういうのも。気楽に読める本が一番だ。

読めなくても、読んでしまえばいい。余白を読み、白紙を読み、読めない文字も気合で読む。

さみしくない本は、もとより本ではないし、さみしくないなら、本など読む必要もない。

すべての本は寝しなに読むのが最高です

 

そうです。そうです。本を読むことは、もっと自由であっていいはずなのです。沢山の本をどんどん読んでもいいし、ただ一冊の本をゆっくり噛みしめるように、ひたすら時間をかけて読むのも素敵です。読めない本を、読まなくてもいいし読んでもいい。いつか読もうと、何年だって寝かせておいても大丈夫なのです。

ただ、忘れてほしくないのは、本からあふれてくる言葉の存在。ページをめくれば、その言葉は、きっとあなたの世界を広げることでしょう。

 

わたしはこれから『おかしな本棚』の中の背表紙を見つめ、空想だけでは物足りなくなった本を探しに行きます。読みたい本が、沢山できてしまったのです。もしその一冊が、実在しない本だったら、とても悔しくなり、そこまで悔しがらせてくれた背表紙に思わず笑ってしまう事でしょう。

 

 

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