広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.48

【蔦屋書店・江藤のオススメ 『死に山』ドニーアイカー、安原和見/訳・河出書房新社】

 

 

男女9人の大学生トレッカーが旧ソ連の雪山で謎の死を遂げる。

不自然なことにマイナス30度の極寒の地でテントを内側から引き裂いて素足で外に飛び出した形跡があり、中には服を着ていない遺体もあったという。

遺体の状況にも非常に奇妙な点が多く、眼球と舌を失った死体や、打撲により頭蓋骨が損傷した跡も見つかっている。更に不思議なことに、衣服からは通常の2~3倍の放射能が検出されたのだ。

 

9人全員が死亡しており、他に目撃者もなく連絡手段も無い完全なクローズドサークルでの事件。一体ここで何が起こったのか、もしくは、誰がなんのために学生らを殺害したのか、それとも未知の生物や兵器によって死をもたらされたのか...?

 

という、本格ミステリー小説ってありそうですよね。

雪に閉ざされた山荘や、目撃者のいない犯罪、関係者全員が死亡したために真実がわからない事件。というのはミステリー小説ではよくあるシチュエーションです。

 

しかし、冒頭に書いたのは、現実に起こった事件なのです。

しかも現代でもまだ真相は謎と言われているわずかな事件のひとつなのです。

 

このディアトロフ峠事件、遺体から眼球や舌が無くなっていた、衣服から高い放射能が検出された、マイナス30度の雪山で靴も履かず服も着ていない遺体があった。などの要素から、オカルト好きの間では、少し前から有名な事件でした。

 

この高度に情報化された現代では、オカルト好きが反応できるネタというのが実はかなり減っています。なにか不思議なことがあっても、インターネットを調べれば誰かが答えを書いていたり、タネ明かしやネタバラシはちょっとググれば見つかってしまいます。

もはや世界に謎は残されていないのか!と絶望してしまうオカルト好きにとって、このディアトロフ峠事件は格好の材料なのです。

 

この事件の特異なところは、発生が1959年のロシア西部、ウラル山脈だった。というところです。冷戦下の旧ソ連の情報統制の中でこの事件は当時全く外部に出されることがありませんでした。しかも、当局は遺族に対しても「未知の不可抗力」という報告のみで、真相を伝えないままだったのです。

 

そんな鉄のカーテンの内側が少しづつ見えてきたのが1980年代のゴルバチョフが行ったペレストロイカの重要な柱のひとつだったグラスノスチ(情報公開)以降なのです。

事件自体はかなり古いものですが、世界の人がこの事件を知ったのはつい最近のことです。

 

オカルト界隈は、この世界最後の謎とも言われるディアトロフ峠事件に色めきだって、少数民族の襲撃説や、UMA(未確認生物)によるものではないか、UFOのしわざではないのか、いや、旧ソ連の秘密兵器の実験に巻き込まれたのでは、などさまざまな説で盛り上がったのですが、決定的なものは無くいまだ真相は謎に包まれたままでした。

 

そんなディアトロフ峠事件の現時点での決定的な真相のひとつが今回出版されたこの本『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』に書かれています。

 

著者は、ロシア人ではなく、アメリカ人のドキュメンタリー映画作家です。たまたま知ったこの事件についてネットで情報を調べているうちにすっかり虜になってしまい、事件の現場まで訪れて真相の解明に乗り出します。

 

本の中では、本を書いた時点での現在である2010年のパートと、事件の起こった1959年のパートが交互に語られます。更に、1959年は事件の直前までの学生たちのルポルタージュと行方不明の学生たちを探す捜索隊の様子が時系列を超えて語られます。

 

現在のパートでは、著者が当時を知る人物に話を聞いたり、実際に現場を訪れる場面などが描かれていて、謎解きの面白さに引き込まれます。

 

過去のパートでは、イーゴリ・ディアトロフをリーダーとした学生たちのトレッキング風景を詳細に描き出しています。その先に起こる悲劇を知らない学生たちの無邪気な山での記念写真なども間に挟まれていて、当時の状況をリアルに感じ取ることができます。

 

ネットでの情報についてありとあらゆるものを収集し、様々な可能性について検討し、更にはそれら情報を持って現地を訪れ、そこで著者が知り得たたったひとつの真相とは。

 

それはぜひ、みなさんが実際にこの本を読み、ディアトロフ達のトレッキングに同行した後で知ってください。

あの夜、一体何が起こったのかを描く最終章の迫力は、まさに必読と言えるでしょう。

 

読み終わったあなたに聞きたい。

あなたは、ディアトロフ峠事件に決着をつけることができましたか?

 

 

 

 

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