広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.159

蔦屋書店・江藤のオススメ 『オール・アメリカン・ボーイズ』 ジェイソン・レノルズ/ブレンダン・カイリー /偕成社
 
 
今回の本は、私がどうしても、ぜひとも皆さんに読んでもらいたいと思った本です。
それも、できれば若い方たちに。
 
この小説はいわゆるYAというジャンルにカテゴライズされています。
YA小説という言葉に馴染みのない方も多くいらっしゃると思いますので、最初に少し説明をさせてください。
「YA」とは「Young adult」のことです、ヤングアダルトを対象に書かれた小説を指します。ヤングアダルトとは、広くはティーンエイジャーを指しますが、狭くは10代後半の若者たちが対象ということになっています。
日本で言う児童文学よりは、少し大人向けという印象でしょうか。
例えば、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』などもYA小説と言えます。
 
なので、難しい漢字にはふりがながついていますし、若者たちの視点で書かれた物が多く、彼らにとってはとても読みやすいとも言えます。
しかし、だからといって大人が読むと面白くないのかというと、まったくそんなことはなく『ライ麦畑でつかまえて』もそうですが、大人だからこその視点でより深い味わいを得ることができます。
 
事実、私もすでに子供がティーンエイジャーという年齢ですが、この小説を読んで深く深く感動しましたし、読み応えでいうと全く軽いものではなく、いわゆる大人向け小説と比べてもまったく遜色ありませんでした。
 
ここで、この小説では一体なにについて書かれているのか説明します。
「BLM(ブラックライブズマター)」という言葉を最近目にする機会が多かったと思います。
アメリカにおける人種差別抗議運動を表す言葉である、というのはわかるのですが、この運動について実際に肌感覚でわかっているのかと聞かれると、私はわかっていませんでした。
ニュースで見る映像、キャスターの解説。どうしても、遠い国で起こっていることであり、自分事では無いと思い、なんとなく知ったというだけで終わらせていました。
 
しかし、それだけでは駄目なんだということを、この小説を読んで思いました。
情報として知るだけではなにもわかっていない。
自分の中に落とし込むためには物語の力というのはすごく有効だと、改めて知るきっかけとなりました。
 
作者は二人のアメリカ人、ジェイソン・レノルズとブレンダン・カイリーです。
黒人作家のレノルズは黒人少年の視点で書かれているパートを書いていて、白人作家のカイリーが白人少年の視点のパートを書いています。
 
ある日、黒人少年のラシャドはお店でポテトチップスを買おうとしていました。
携帯がバッグに入っていることに気がついてポテトチップスを脇に挟んで、しゃがんでバッグを開けます。そのときに、買い物をしていたおばさんが後ずさりをしてラシャドにぶつかってきます。おばさんが持っていたビール瓶は割れて床にビールは飛び散る。騒ぎに気がついた店員がやってきてラシャドに言います。「おい!」そこに警察官がやってくる。警察官はおばさんに言います「こいつがなにかしでかしましたか」おばさんは戸惑って「いえ、そうじゃなくて、、、」すると店員が警官の肩越しに叫びます「ポテトチップスを盗ろうとしたんですよ!」ラシャドはもちろん否定します。しかし警官はラシャドを引っ張って外に出します。無線で応援を呼びつつラシャドの顔面を道路に叩きつけます。鼻の骨が折れる音を聞きつつ頭が真っ白になるラシャド。乱暴につけられた手錠で手首が切れる。動くたびに、腹や首の後ろを殴られる。背中を蹴りつけられる。覆いかぶさって殴り続ける警官にたいしてラシャドの頭に浮かぶのは「殺さないで、、、」ただそれだけでした。
 
ここから物語は始まります。
 
白人警官による黒人少年への暴行。
これは決して珍しいことではなく、何度も何度も起こっていることです。
もしかすると今、この時も。
黒人だから盗っているに違いない。俺は警官として正しいことをしている。
それが当たり前のこととしてまかり通っています。
それを私たちが少しでも理解しようと思っても、新聞などで情報を得る、ニュースで見る、だけでは弱いのかもしれない。
先程も書いたように物語として自分の中に落とし込むのがいいのかもしれません。
 
白人少年のパートでは、暴行をした白人警官と付き合いのあるクインという白人少年が登場します。
彼はラシャドと同じ学校に行っているので、当然このニュースを耳にします。
クインは実はたまたま暴行の場面に出くわして目撃もしていました。
 
さらには、その暴行の場面は動画に撮られていたらしく、その動画は拡散し、若者たちは抗議デモを計画するのです。
 
果たしてデモは計画通り行われるのか、ラシャドはどうなるのか、そしてクインはどう動くのか。
 
私はこの小説を、とある友人から勧められました。
本読みとして(だけではないですが)とても信頼している人なので、それなら読んでみようかなと。そしてやっぱり読んで良かったと思っています。
今まで知識として聞いていたけれど、わかっていなかったことを、少しでも自分の中に落とし込むことができました。
 
差別の問題については、他人事ではなく、自分の事としてみんなが常に考えていかなければならないものだと思います。決して部外者ではいられないはずです。
みんながひとりひとり、この世の中を少しでも良くしていくために、差別の問題について常に考えていれば、きっと変わっていくことがあるはずです。

本を勧め合うって本当に素晴らしいことだと思っています。
幸せなことに、そんな人達が私の周りにはたくさんいます。
書店員をしているからかもしれません。
もしかしたら、あなたは自分の周りにはそんな人はいないよって言うかもしれない。
いや、そんなことはないはずです。
私がいます。
 
私は、この本というバトンを友人から受け取りました。
そして、この文章を読んでくれたあなたにこの本をお勧めします。
このバトンを託します。
 
次はあなたの番です。
 
 
 
 
 
 

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