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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.214『ぽんちうた』死後くん/ブロンズ新社

蔦屋書店・佐藤のオススメ 『ぽんちうた』死後くん/ブロンズ新社
 
 
『ぽんちうた』の作者で、雑誌やテレビのイラストなどでも活躍する「死後くん」をご存知でしょうか?
 
名前は分からなくても、死後くんが描く絵を見たことがある方はたくさんいらっしゃると思います。書籍では『失敗図鑑』(文響社)や『有名人の愛読書50冊読んでみた』(中央公論新社)といったヒット作の表紙や挿絵を担当しています。
死後くんの描く絵は、少し不気味な独特の雰囲気が持ち味。時代に合った、力の抜けたゆるさとインパクトを持っています。
また死後くんは、ライフワークとして「境みなと」の名義で「背後霊似顔絵」画家としての活動(その人に憑いていると思う背後霊の似顔絵を死後くんが好きなように描く)も、時々行っておられるそうです。
 
そんな死後くんが初めて、文と絵どちらも手掛けた本は、うた絵本。これが素晴らしい傑作なのでご紹介したいと思います。
 
ボールをつきながら口ずさむ「手まりうた」をイメージした、自作のわらべうたと、そのわらべうたの世界を表現したイラストが楽しめる、密度の濃い一冊です。
 
どういうところが傑作なのか?
何でしょう…まず、ページを開いて目に入るあらゆるものが「へん」なのです。
 
カブトムシが、ハトが、お魚が、みんな長ズボンを履いています。
 
巨大な鏡もちの一番上に載っているのは、ミカンではなくスイカです。
 
立派な丸テーブルの席に座る、シルクハットの紳士の前に置かれているのは、ガラスのコップに入ったエビフライ。
 
お茶碗の中にいるのは、全身白いご飯つぶにまみれた、裸んぼうの赤ん坊。
 
とにかく、ページいっぱいに描き込まれたどれもこれもが、次元のねじれた不思議な世界をあらわしているかのよう。
「どうかしてる」と思わずにはいられない、見ようによっては鬼気迫るものさえ感じる特異な発想の数々は、それがサービス精神に基づく仕事というよりも、おそらく「筋金入り」のものであることを示している気がします。
 
そしてそのような、この世ならぬ奇妙なモチーフの数々が、ユーモラスでかわいらしくもある、というのが、大事なポイントだと思います。
死後くんは今回、子どもに向けた本ということで、かわいらしい要素を採り入れながら描くことを心掛けたそうです。いわば死後くんにおける「不気味さ」と「かわいらしさ」のコラボレーションです。この相性が抜群。大成功しているのではないでしょうか。
子どもが見ても、大人が見ても楽しめる、驚きと面白さがいっぱいの『ぽんちうた』のイラストは、個性派ということにとどまらない魅力と価値を備えたものであると思います。

そして、そのイラストの世界を、死後くんが自らの言葉で表現したわらべ歌が、全部で15あります。そのうちのひとつを引用してみましょう。
 
 
「のこった こうた」
のこった のこった おさらに のこった
ひがし ぴーまん にし にんじん
のこった のこった どちらも のこった
はっけよいよい がぷりよつ
 
しろぼし くろぼし うめぼし すっぺえ
きょうの きまりて たべのこし
あすは ぴっかり はっけよい
はっけよいよい ごちそうさん
 
 
子どもの好き嫌いや食べ残しを、お相撲にひっかけた歌。意味があるような、ないような…よく分からないけど、きっとそこがいいのです。
オノマトペや、だじゃれが満載。面白くて、口ずさめば心地好い死後くんのわらべうたを、子どもたちはじきに覚えてしまうでしょう。
日常の生活をテーマにとった親しみやすい詞の中に、その子のお気に入りのフレーズも見つかるのではないでしょうか。
 
『ぽんちうた』は、死後くんが描く不思議な世界に親しむことが、その子にどんなふうに響いていくのかということも含めて、楽しめる作品ではないかと思います。

ところで、この絵本を実際に手にとって見てみると、独特のあたたかみのある、明るくて綺麗な発色であることが分かります。これは「カレイド印刷」という特別な印刷方法を採っているためだそうです。
また、添付されている帯の、言葉やデザインそして手触りなどが、表紙の画の雰囲気にぴたりと合って、その良さをより一層引き立てています。
このような作品に対する、編集やデザイナーの方の、こだわりと愛情を感じるのも、この絵本の素敵なところだと思います。
 
 
 
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