広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.63

【蔦屋書店・神崎のオススメ 『拝啓、本が売れません』額賀澪 / KKベストセラーズ】

 

 

活字離れ、出版不況、○○書店閉店… こんなニュースを頻繁に耳にするころ、私は書店員になった。本が好きで、たくさんの本に囲まれて働けたらいいなと夢に描いていた。現実になったが、本が売れない時代のど真ん中だ。紙の本、特にハードカバーの単行本は、大きな賞を取ったとか有名作家は別として、なかなか売れない。書店以上に本の作者、小説家は切実かもしれない。書いたものが売れなければ、日々の生活にも影響する。

 

『拝啓、本が売れません』の著者の額賀澪氏は、2015年に『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞を、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を受賞してデビューした。平成生まれのゆとり作家を自認する新進気鋭の小説家だ。本書はその彼女が、「本が売れない」と元気のない出版業界を生き抜き生き延びるために、その道のプロフェッショナルたちを突撃し、「売れる本」を模索するノンフィクションである。

 

持ち前の行動力で額賀氏は取材を重ねる。敏腕編集者、スーパー書店員、Webコンサルタント、映像プロデューサー、ブックデザイナー。それぞれ仕事は違っていても、「売れる本とは何か」に導き出された答えは共通して「面白い本」「いい本」だった。作家の最大の武器である文章で、届けるべきところに届ける工夫や、届ける努力を一つ一つ丁寧にやっていくことだった。

 

取材が進む中で「なぜ本が売れないのか」から「どうしたら売れるのか」、「売れる本とは何か」と、深く入り込んでいく。さらに1冊の本ができるまでの過程や作家の苦悩、出版業界の内部も垣間見ることができる。本というのはこんなにも奥深いものかとため息がでる。

 

もう一つ、本書の出版(2018年3月)のあとに文藝春秋社より刊行予定だった新作『風に恋う(仮)』の試し読みも掲載されている。KKベストセラーズと文藝春秋社、二つの版元を繋ぐ画期的な離れ業だ。(注『風に恋う』は2018年7月に文藝春秋社より刊行された)

 

「面白い本を作ったって、売れないかもしれない。それでも《面白い本》ではないと絶対に《売れる本》にはなれない。」

 

こんな思いで作られた『拝啓、本が売れません』は本の好きな人はもちろん、活字から離れてしまった人、作家を目指している人や出版業界に興味のある人にも《面白い本》だと、おすすめしたい。

 

最後に書店員として本書に登場するスーパー書店員松本大介さんの言葉を肝に銘じておこう。

 

「書店員は《読者の最前線にいる者》として、努力し続けなければいけない」

 

 

 

 

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