広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.217『『ニューヨーク・タイムズ』のドナルド・キーン』角地幸男/中央公論新社
蔦屋書店・竺原のオススメ 『ニューヨーク・タイムズ』ドナルド・キーン/角地幸男 訳/中央公論新社
ドナルド・キーンと言えば日本文学研究の偉大な第一人者として知られている。
彼自身について詳しく知らなくとも、川端康成や三島由紀夫、安部公房といった日本を代表する作家との関りからその名を知るに至ったという方も多いと思う(私も安部公房にのめり込んでいた大学時代に、安部公房自身を掘り下げてゆく過程で初めてその存在に出会った記憶がある)。
またノーベル財団が公開したノーベル文学賞の選考資料によって日本人文学者の選考に当たって参考意見を求められていたことが明らかになっているとの事なので、例えば川端康成のノーベル文学賞受賞にも寄与していたり、文芸評論やその翻訳によって世界に日本文学を伝える伝道師としての役割を挙げれば枚挙に暇がない程である。
彼自身について詳しく知らなくとも、川端康成や三島由紀夫、安部公房といった日本を代表する作家との関りからその名を知るに至ったという方も多いと思う(私も安部公房にのめり込んでいた大学時代に、安部公房自身を掘り下げてゆく過程で初めてその存在に出会った記憶がある)。
またノーベル財団が公開したノーベル文学賞の選考資料によって日本人文学者の選考に当たって参考意見を求められていたことが明らかになっているとの事なので、例えば川端康成のノーベル文学賞受賞にも寄与していたり、文芸評論やその翻訳によって世界に日本文学を伝える伝道師としての役割を挙げれば枚挙に暇がない程である。
本書はそんなキーン氏が、1955年ー1987年にかけて米『ニューヨーク・タイムズ』紙に向けて寄稿した日本文学や日本文化、時には美味しい魚料理の店について書いた27編の書評やエッセイをまとめた1冊である。
個人的に特に興味深かった項目をいくつか挙げようと思う。
まずはじめが「日本文学者という「専門家」の告白」※原題「SPEAKING OF BOOKS:Confessions of a Specialist」の項目である。
今でこそ世界には多くの日本文学の翻訳家がいる(のだと思う)が、キーン氏の壮年期にはその存在はまだ珍しく、かつ周囲からの評価としては軽んじられたり、あるいは「なぜあえて日本なのか?」と疑問を持たれる事が多々あったと言う。
そんな中で自分の信念を貫き通した氏の思いが窺い知れる当時のエピソードは、非常に感慨深く読む事が出来る。
今でこそ世界には多くの日本文学の翻訳家がいる(のだと思う)が、キーン氏の壮年期にはその存在はまだ珍しく、かつ周囲からの評価としては軽んじられたり、あるいは「なぜあえて日本なのか?」と疑問を持たれる事が多々あったと言う。
そんな中で自分の信念を貫き通した氏の思いが窺い知れる当時のエピソードは、非常に感慨深く読む事が出来る。
次に「ミシマ―追悼・三島由紀夫」※原題「Mishima」の部分。
三島由紀夫とキーン氏の交流は広く知られる所であるが、このエッセイは三島が切腹を遂げた後に書かれたものだ。
日本の新聞社の特派員からコメントを求める電話を受けた事でその報を知ったという事だが、仕事の関係を越えた友人としての深い付き合いもあった氏だからこそ抱く感情があったり、振り返ってみて三島の作品にはどの様な価値があったか、はたまた人間・三島由紀夫とはどの様な人物であったか等を知る事が出来る、得難い文献である。
三島由紀夫とキーン氏の交流は広く知られる所であるが、このエッセイは三島が切腹を遂げた後に書かれたものだ。
日本の新聞社の特派員からコメントを求める電話を受けた事でその報を知ったという事だが、仕事の関係を越えた友人としての深い付き合いもあった氏だからこそ抱く感情があったり、振り返ってみて三島の作品にはどの様な価値があったか、はたまた人間・三島由紀夫とはどの様な人物であったか等を知る事が出来る、得難い文献である。
最後に「渋谷「玉久」の魚料理」※原題「Tokyo」。
これはキーン氏が常連であったという渋谷区道玄坂にあった伝説的な割烹料理屋・玉久(※現在は閉店している)についてのエッセイで、文芸論の枠を越えて日本の文化に言及した内容のものであるが、一個人としてのドナルド・キーンが目に浮かんで来る様なゆったりとした語り口である為、書評や文芸エッセイが主となっている本作の中において良い存在感を感じるし、文面から心地良い郷愁が漂っている。
これはキーン氏が常連であったという渋谷区道玄坂にあった伝説的な割烹料理屋・玉久(※現在は閉店している)についてのエッセイで、文芸論の枠を越えて日本の文化に言及した内容のものであるが、一個人としてのドナルド・キーンが目に浮かんで来る様なゆったりとした語り口である為、書評や文芸エッセイが主となっている本作の中において良い存在感を感じるし、文面から心地良い郷愁が漂っている。
ところでキーン氏と日本文学との出会いは1940年、彼が18歳の時にタイムズスクエアで売られていたアーサー・ウエーリ訳『源氏物語』を49セントで購入した所まで遡るらしい。
買った理由は「本の厚さに対して値段が安かった」からだそうなのだが、そう考えると人の歩む道というのはどんなきっかけで決まるものかわからない(氏の場合、その出会いがあって2012年には日本へ帰化している事もあるので、尚更そう感じる)。
買った理由は「本の厚さに対して値段が安かった」からだそうなのだが、そう考えると人の歩む道というのはどんなきっかけで決まるものかわからない(氏の場合、その出会いがあって2012年には日本へ帰化している事もあるので、尚更そう感じる)。
そんな感慨も抱かずにはいられない1冊であった。
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