広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.360『文学は何の役に立つのか?』平野啓一郎/岩波書店
蔦屋書店・飯田のオススメ『文学は何の役に立つのか?』平野啓一郎/岩波書店
読書の価値や意味を説く本は多い。私たちは、本から知識を得たい、本を読んで賢くなりたい、人生に役立てたいと願って止まない。これらの知識欲を満たすため、ビジネスジャンルにおいては速読や多読などが読書術として確立されている。それでも満足できないのか、オーディオブック、本の要約サイトまで生み出した。もはや一冊の本をゆっくり読みとおす行為は贅沢なのかもしれない。
実生活ではコスパ、時短がもてはやされ、仕事においてもコスト管理、生成AIと、これほど「役に立つ」に私たちが囲まれた時代はないだろう。
国家や宗教を超えたテクノロジー社会で、個人はスマホやタブレットを駆使して自らも機械化して生きるしかなく、他者とは価値観が邪魔をしてわかりあえなくなる、このことがネット社会によって可視化された。
こうした分断に陥りやすい時代に、文学で得られる思考や共感の必要性を語るのが本書である。著者である平野啓一郎の作品では、構造的な行き詰まりの中での人間の生と死を描かれる。
また本書はエッセイ・評論集でもある。ドストエフスキーや三島由紀夫などの作家論、作品評論において、平野氏は生の本質、他者との対話についてを考察する。作品をとおして作家との対話は、私たちと社会や人とのつながりを想起させるものであり、美しい言葉によって共有される文学は私たちの囲いを取り払い、生きている他者を知る手がかりになるのであろう。
実生活ではコスパ、時短がもてはやされ、仕事においてもコスト管理、生成AIと、これほど「役に立つ」に私たちが囲まれた時代はないだろう。
国家や宗教を超えたテクノロジー社会で、個人はスマホやタブレットを駆使して自らも機械化して生きるしかなく、他者とは価値観が邪魔をしてわかりあえなくなる、このことがネット社会によって可視化された。
こうした分断に陥りやすい時代に、文学で得られる思考や共感の必要性を語るのが本書である。著者である平野啓一郎の作品では、構造的な行き詰まりの中での人間の生と死を描かれる。
また本書はエッセイ・評論集でもある。ドストエフスキーや三島由紀夫などの作家論、作品評論において、平野氏は生の本質、他者との対話についてを考察する。作品をとおして作家との対話は、私たちと社会や人とのつながりを想起させるものであり、美しい言葉によって共有される文学は私たちの囲いを取り払い、生きている他者を知る手がかりになるのであろう。