広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.163

蔦屋書店・河賀のオススメ 『幻のアフリカ納豆を追え!ーそして現れた〈サピエンス納豆〉ー』高野秀行/新潮社
 
 
これはまさに納豆を巡る冒険記であり、おもしろおかしく読める学術探検の報告である。
 
辺境マニア、探検ノンフィクションで名高い高野秀行さんの納豆冒険記『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』の続編といえる本書は、高野ファンはもちろん高野初体験の人でも、納豆好きはもちろん納豆嫌いの人でもきっとお楽しみいただけると思います。
 
納豆といえば日本食、と思ってはいませんか。その庶民食ならではの思い込みを高野さんは手前味噌ならぬ手前納豆とよんでいます。納豆はいったいどこからきたのか!その真相は!?前作ではアジア各地で食べられている納豆を探求しましたが、本書ではなんとアフリカで納豆を発見します。
 
ナイジェリアではせんべい納豆、セネガルではくんせいオクラ型納豆のテネトウを発見。アフリカの美食大国ともいわれるセネガルの「チェッブ・ジョーラ」別名「セ・ボン(美味しい)」やクレイジーうま味料理「スープ・カンジャ」にもテネトウを使います。この2種に限らずですが、作る工程や描写が巧みで熱気やにおいまで伝わってきそうです。そして驚愕や感動が入り混じりながら自ら食すルポにはいつもながら引き付けられます。読んでいると本当においしそうで食べてみたくなるのですが、添えられている写真はあまりおいしそうじゃないのも面白いのです。表紙なんてうん〇にしか見えないしって怒られますね(笑)
 
この旅ではカメラ担当の竹村氏を相棒に巡りますが、行く先々でよく体調をくずす竹村氏と高野さん、そして現地の人々との取材や交渉の様子がまた面白くて、アフリカはイスラム過激派出没地域から韓国は南北軍事境界線という辺境どころじゃない場所でも、愉快な旅にみえてくるのです。高野さんの代表作『アヘン王国潜入記』では約7カ月にわたってアヘン密造地帯に潜入取材しますが、怖いという印象よりも知らないことを知れる楽しさでワクワクしてしまうのは、ユーモアあふれる語り口と、何よりそこに暮らす人々の目線に立つ誠実なジャーナリズムがあるからだと思います。話がそれましたが、竹村氏は前作も同様に相棒ということもあり、シリーズものの冒険コメディさながらです。
 
韓国ではカオス納豆チョングッチャンの謎にせまり、非武装地帯パジュへ。このチョングッチャンの正体を探り当てる道中もおもしろくてまた美味しそうなのですが、その謎にたどり着いた時ふと、ある韓国ドラマで韓国の料理人がキム主席にチョングッチャンを振る舞うシーンを思い出しました。そのシーンからチョングッチャンの謎のヒントをわたしは得ていたような気がして・・・なんのことだかさっぱり分からないかもしれませんが、謎を追う冒険というのはとにかく楽しい!ということです。
 
次はどこに何を探しに行くのですか?これからも高野さんの冒険から目が離せません!
さぁあなたもまずは本書から!ねばつく納豆の引く糸に操られて、高野さんの納豆をめぐる冒険に同行しませんか。

 
 
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