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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.266『三流シェフ』三國清三/幻冬舎

蔦屋書店・竺原のオススメ『三流シェフ』三國清三/幻冬舎
 
 
「世界のミクニ」こと三國清三と言えば日本フレンチ界の巨星であり、その名を知らぬ者はいない。
一方で、氏がこれまでどういう人生を送って来たのか?といったストーリーの部分に関しては、意外と知られていない(それこそ本作で本邦初公開となったエピソードもあったのではないだろうか)。
 
そもそも「世界の」という冠と共にその名が呼ばれるのは、普通の事ではない。
一方で、その様に呼ばれる人たちは、少ないながらも確かに存在する。
 
「世界のクロサワ」「世界のミフネ」「世界の王(貞治)」…。
 
では、この三國氏は、そんな錚々たる顔ぶれと同じく「世界の〇〇」と呼ばれるのに相応しい人物なのか?
 
本作を読み終えた私は、こう思った。
三國氏は、まごうことなき「世界のミクニ」である、と。
 
この一冊は、そんな三國清三その人の人生をありのままに振り返った、血と汗にまみれたとんでもなくパワフルな自伝である。
 

東京四谷の住宅街に「オテル・ドゥ・ミクニ」を開業したのは1985年、今から37年前のことだ。

そんな一文から始まる本作。
「今から37年前」と言うととても長い年月であるが、そう言われると否応なしに37年前から現在に至るまでの三國シェフの歩みを想起してしまい、いきなりこの先の展開が楽しみになる冒頭である。
 
そして本編は氏の出身地である北海道留萌支庁管内増毛町での幼少期から語られるのであるが、とにかくおもしろい。
 
漁師である父と共に毎日の様に漁に出ていた事で、獲れたウニやアワビを魚市場に売りに行く役割を担った幼き日の三國少年。
ある時化の日、アワビが一つ二つしか獲れなかったと言う。
数が少ない為に市場では競りにかけられないと断られたが、モノが立派だった為に諦めきれず、近くの料理屋に持って行こうと決意する。
そこで一芝居打ちつつ、見事にアワビを買い取って(しかもいい値段で)もらい、しかもその後も時々通う間柄になったというエピソードなんかは、氏の大物ぶりを表す感じがして特に好きである。
 
自伝と言うと過去から現在にかけてのあれやこれやが語られて完結するものが多い中でこの作品の面白いところは、最後の最後に未来へ向けての決意表明がなされている点である(しかもかなり具体的な)。
かなりワクワクする内容であったので、これを読んだ読者からすれば三國シェフの今後の動向からも目が離せなくなる訳である。
 
ちなみに作中で言及されていた三國シェフの過去の著作であり、伝説的な料理本である『皿の上に、僕がある』という書籍。
現行では手に入らないものの非常に気になったので各種オークションサイトやフリマアプリを覗いてみたところ、とにかく入手が困難。
実はこちら1986年に出版されたオリジナル版と2016年に出版された復刻版の2種類が存在(共に柴田書店刊)しているものの、どちらも二次流通している数が少ないみたいで、という事はすなわち、それだけ手元に置いておきたいという人が多いという証左にもなる為、そうした点からも尚更中身を見てみたい思いに駆られる訳で、三國氏自身の動向に加えて、こちらの出品状況も追って行きたいと思っている。

 
 
 
 

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