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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.219『VIP グローバル・パーティーサーキットの社会学』 アシュリー・ミアーズ/みすず書房

蔦屋書店・丑番のオススメ 『VIP グローバル・パーティーサーキットの社会学』アシュリー・ミアーズ/みすず書房

 
ニューヨークの富裕層が集うナイトクラブ。金を持っているか、美しいかのどちらかが、入場の基準。あてはまらない客は入口で入場を拒否される。超有名DJがEDMを鳴り響かせる享楽の場。ダンスフロアは客であふれ、バーカウンターには列ができている。超富裕層たちは混雑しているフロアでなく、一段高い位置にあるVIP席に陣取っている。周りに20人から30人のモデルの女性を集め、他のテーブルよりも高額のシャンパンボトルを多く注文しようと超富裕層たちが競う。誰よりもボトルを数多く注文したテーブルが会場の注目と尊敬を集める。超富裕層のテーブルはDJブース横の目立つ位置に設定され、テーブルの上に飲みきれないほどのボトルが並び、美しい女性に囲まれているという視覚的なスペクタクルをフロアにいる一般の観客たちに提供する。テーブルひとつの一晩の会計が10万ドルを超えることもあるという。
 
あほらし、わたしには全く関係ないなー、という話なのではあるが、そのVIPパーティーに元モデルという経歴を生かし、ボストン大学の社会学の教授が潜入し、その奇妙な場に働く力学を明らかにしたということであれば、どんな話かと読んでみたくなるではないか。潜入調査も長期的かつ多地域に渡っている。18ヶ月という長期間、ニューヨークやロサンゼルスといった都市型のナイトクラブだけでなく、イビサ島やカンヌといったヨーロッパの保養地での貸切パーティーにも関係者の協力を得て潜入調査を行っている。
 
超富裕層のパーティーにはモデルとボトルが付き物だという。ボトルについて描写された一節を引用する。
 
「ボトルは、大きさも重要だ。クラブのメニューにはどんどん大きなボトルが登場するようになっており、「ジェロボーム」(3リットル)だの「メシュトラ」(6リットル)だの聖書から取った名前がついているものが多い。メシュトラは通常のボトル8本分で《クラブX》ではクリストルのボトルが4万ドルという価格がつけられている。メニュー上のボトルのサイズが大きくなるにつれ、その価格は直線的でなく指数関数的に上がっていく。中身の液体でなく、ボトルの大きさの誇示が希少価値を与えるからだ。ウェイトレスが運ぶにはボトルが重すぎるので、身体の大きな警備員がテーブルまで運んできて、肩にかついで繊細なシャンパンフルートに液体を注ぐこともある。スピリッツのほうはもっと少ない量を時間をかけて飲むものなので、最大でも1.75リットルまでしかいかない。」
 
アホなのかな、と思う。指数関数的に上がっていくというところと、1.75リットルのウォッカのボトルを思い浮かべると、笑ってしまう。

一方のモデルについての描写は笑えない。ナイトクラブの価値は「上質な」女性がどれだけいるかで決まるという。上質とは若く、背が高く、痩せていて、白人であること。そして、職業としてモデルをしていること。人格でなく外見的特徴が基準となる。この時代にそんな空間が存在するのかとげんなりする。
 
モデルが集まっていることがクラブの価値になるのであれば、モデルをクラブに集めることが仲介業として成立する。本書は、超富裕層、仲介業者、モデルという3つのプレイヤーが織りなすVIPパーティーという奇妙な儀式とその意味について書かれている。そこから浮かび上がるのは、労働と搾取、身体資本と経済的資本。人種と階級、そしてジェンダーという普遍的なテーマだ。長期の参与観察と100人を超える超富裕層、仲介業者、モデルへのインタビューによって、わたしたちが知ることがなかった民族誌が描かれている。
 
 
 
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