広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.68
蔦屋書店・花村のオススメ 『父は空 母は大地―インディアンからの伝言』寮美千子 (編翻・訳) / ロクリン社
暖かかくなりましたね。
皆さんは「自然」は好きですか? 私は大好きです。よく近所の公園に散歩に行くのですが、季節によって風景が変わります。
この公園の自然が私に季節の変わり目を教えてくれます。 この前なんて広島が開花宣言をする前に、桜が咲いてるのを見つけたんですよ!(笑)
私にとってはなくてはならない存在です。
私たちの文明社会は自然の上に成り立っています。地球の上に住んでいるのに、ついつい忘れてしまいそうになる事。
この本は、自然と共に生きた人たちから、近代社会に向けたメッセージです。
時は150年前のアメリカ。
原住民のインディアン達は、土に種を埋めてただひたすら豊作を大地の精霊に祈る。 品種改良しない。耕さない。水すら撒かない。
ひたすら自然に祈る。
「雨が降りますように」「命を繋げますように」 と。
「私たちの命は自然の一部」 「自然と共に生き、共に滅ぶ」 という生き方を先祖代々続けていました。
そこに侵略者が現れます。 1代目大統領ジョージ・ワシントンを筆頭とするアメリカ政府でした。
家族を守るため、神聖な大地を守るため、彼らは戦いを選びます。 彼らとアメリカ政府の戦いは70年に及びます。
そして、政府は彼らに
「君たちの土地を買う。そのかわりに出て行け、そうすれば攻撃しない」
という交渉をし、彼らはそれに応じました。
その時にインディアンの代表としてシアトル首長という人がスピーチを行います。
そのスピーチは
「自然とは何か」
「人とは何か」
「私たちは何者なのか」
という彼らの信念、生き方、戦った理由。 そして現代社会への警告が込められていました。
そのスピーチの内容を絵本という形にしたのが本書です。
「自然を失えば人間に何が残るのか。」
「命の喜びに溢れた暮らしは終わり、ただ生きのびるためだけの戦いが始まる」
「だから君たちがこの大地を大切にしてくれ。いつまでも」
史上稀にみる「絶滅作戦」を行い、同胞を滅ぼした人たちを 「同じ大地に生きる兄弟」と呼び、滅びゆく自分たちの生き方を受け継ぐ者として受け入れる。 そのどこまでも自然で、どこまでも柔らかい在り方。
怒り、憤り、哀しみ、哀れみ、誇り、喜び、慈しみ。
その全てを内包する深い魂の言葉。
彼らの亡骸を土台とした今の社会に生きる私たちは、彼らの遺言と意志を守れているのだろうか。
彼らが命懸けで守ろうとした、父なる空、母なる大地は150年前の美しいままなのだろうか。
私たちは、彼らの想いに応えられているのだろうか。
「大地は私たちに属しているのではない。私たちが大地に属しているのだ。」
「自然との共生」ではなく「自然と一体化」する彼らの生き方とまっすぐな言葉が私たちを貫いています。
そして今、季節は変わり春になりました。
公園という現代人の制御下に置かれた自然に、彼らの魂は宿っているのか。いつもと変わらない暖かい日差しは、きれいな桜は、私たちを包み込む自然は、彼らの家族なのかもしれない。
150年前の大地を駆け抜けていたインディアンに想いを馳せてのお花見もまた素敵ではないでしょうか。
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