広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.69

蔦屋書店・江藤のオススメ 『人喰い ロックフェラー失踪事件』 カール・ホフマン 亜紀書房

 

さあ、知らない世界への旅に出よう。

 

本を読むことは、旅に出ることに似ていると思う。

 

人は、知らないものを知りたい、わからないことをわかりたい、行ったことの無いところへ行きたい。という根源的な欲求を持っているのだと思う。

 

そんな欲求を満たすために私は本を読む。

 

さて、この本。穏やかでないタイトルである。

人類の最大のタブーとされている人を喰うという行為。

しかもその犠牲者があのロックフェラー一族の人間なのだ。

 

本の冒頭で読者は1961年のロックフェラーの旅に同行する事になる。

マイケル・ロックフェラーは石油王ロックフェラー家の人間で、その父親はアメリカ副大統領もつとめた、ネルソン・ロックフェラーである。

マイケルはプリミティブアートを収集する旅の中でオランダ領ニューギニアのアスマットを訪れていた、そこでは昔から首狩りの習慣があった場所であるが、その当時にはすでにその習慣は失われていると公式には言われていました。

 

そのアスマット滞在中に、奥の村へと移動していたマイケルが乗ったボートが転覆してしまう。マイケルは、そのボートから約16キロメートル先の陸地に行くため体に空のガソリン缶をくくりつけて泳ぎ出す。

 

そしてそのまま彼は消息を絶ってしまうのだ。

 

公式には、彼は陸地にたどり着くことなくおぼれて死んでしまったとされている。

しかし、この本の冒頭で詳細に語られるのは、陸にたどり着いたマイケルを見つけたアスマットの男たちが彼を殺して、彼らの宗教に根ざした昔からのやり方で彼を解体し食べてしまう衝撃的な場面だ。

 

さて、この冒頭のシーンは作者が想像だけで書いたものなのか、それとも事実あったことなのか。

 

ここから舞台は2012年に移動する。

作者がこのマイケル・ロックフェラー失踪事件の真相を探るため、アスマットを訪れ調査を進めていくのだ。

そして、1957年から始まるマイケルのアスマットへの旅が交互に語られる。

過去と現在を行き来しながら調査は進んでいくのだ。

 

調査を進めていく中で、ついにアスマットの男たちの話の中にロックフェラーという言葉が出てくるところなど、読んでいてゾクゾクさせられる。

しかし、真相に近づいたかと思う場面もあるのだが、彼らは決してそれ以上話そうとはしない、堅く口を閉ざしてしまうのだ。

 

ここで調査は行き詰まる。作者の帰国までのタイムリミットは過ぎ、現地を離れなくてはならなくなる。ここで真相を探る旅は終わってしまうのか、あとは想像で補うしかないのか。

 

よくあるノンフィクションならこれで終わるところかもしれない。

しかし、この本の面白いところはここからなのだ。

作者は、帰国後インドネシア語を習得し、最初の訪問から7ヶ月経った後、今度は通訳も介さず、たった1人で現地に1ヶ月間住み込んで共に生活をしながら彼らを観察するのだ。

 

そして、一定期間が過ぎた後に作者はアスマットの男たちを過去に引き戻す為のある手段を使う、そのことによって起こった事態とは。彼らはなにを語ったのか。

 

さあ、このあたりで私の語りは終わりにさせてもらいます。

 

案内人の居る旅も悪くはないが

やはり、旅の醍醐味を味わえるのは1人旅だと思いますから。

 

 

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