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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.221『図書室のはこぶね』名取佐和子/実業之日本社

蔦屋書店・江藤のオススメ『図書室のはこぶね』名取佐和子/実業之日本社
 
 
図書室って好きでしたか?
私は好きでした。
小学生の時は、学校の図書室の本に飽き足らず、時々学校にやってくる、移動図書館(軽のワンボックスカーだったのかな、本がぎっしり詰まった車がやってきて本を貸してくれていた)も楽しみで、更には、週末には毎週のように親に車で少し離れた大きな図書館に連れて行ってもらうのを楽しみにしていました。
 
そんな、誰もが大好きな(ここを読んでくれている人ならきっと)図書室を舞台にした青春小説となれば、読む前からいい本だということは大体わかります。
 
ここでちょっと脱線して、私が書店員あるあるだと思っている書店員ならではの習性をこっそりお教えしますと、書店員というのは「間違いなくいい本だ」という本はあえて読まないことが多いのです。
というのも、いい本とわかっているのであれば、たくさん仕入れていい場所に置いて、そして自動的に売れていくというのが見えてしまうので、読む必要が無いと思ってしまうんですね。
逆に、誰も知らないような作家さんや、新人の作家さん、が書いたちょっと変わった本や、まだ話題になっていないし、売れてもないけど、めちゃくちゃ良さそうな雰囲気を感じる本というのは、義務感も働いて読むことが多いのです。
なので、人気作家の本や話題の本を意外と書店員が読んでいないというケースは結構あることなので、なんでこんな本も読んでいないんだといって石を投げるようなことはご遠慮ください。ただ、私などは、読んでいない本でも、さも読んだふうに人に話をすることもできますので、そこはご注意ください。
それでは余談はここまで。
 
図書室が舞台、謎解きがある、青春小説、これだけ揃ってしまったら読まないわけにはいかないか。では、読んでみましょうか。
 
主人公は、女子バレーボール部のエースで体育会系ですが、怪我をしてしまって、一週間後に控える体育祭には参加できなくなってしまいます。
そんな彼女は友人に頼まれて、図書当番を一週間代理で務めることになります。
そして、彼女は図書室である本を見つけてしまうのです。
 
それは、今更返却されるはずのない、10年前に貸し出された、ケストナーの『飛ぶ教室』。
しかもその本には謎のメモが挟まれています。
「方舟はいらない 大きな腕白ども 土ダンをぶっつぶせ!」
 
退屈だと思っていた図書当番ですが、いい暇つぶしを見つけたと、彼女は図書委員の男の子の力も借りつつこの謎を解くことにするのですがーーー
 
という出だしから本好きにとってはたまらないですよね。
この謎を解くために二人は、司書の先生、図書委員の顧問の先生、その先生の同級生だった大人たち、とさまざな人の力を借りるのですが、ある人はそっけなく、ある人は協力的で、ある人は時折ヒントをくれる、など態度もまちまち。
というのも、実はこの件には、10年前のある事件が関わっているからなのです。
その関係者にあたる人たちは、それぞれの思いを胸に秘めているので、ちょっと変わった態度を取ってしまう、それはいったい誰と誰と誰なのか、、、
 
さらには、ふたりの周りには体育祭での「土ダン」に関わるとある問題にも巻き込まれて、そちらの解決も迫られます。
この「土ダン」というのは、本に挟まれていたメッセージにも出てくるのですが、正式には「土曜日のダンス」といって、この高校の体育祭の名物競技です。
「Saturday Night」という音楽にあわせて、全クラスがそれぞれテーマを決めて、仮装をして、同じ振り付けで踊るという、40年続く伝統の競技。
この「土ダン」を巡る問題も、実は本の謎にも絡んで来るので、物語はさらに複雑になっていきます。
 
ふたりは、これらの問題を解決する中で、ある大きな課題に取り組むことになります。
それは「全員が平等に一緒に楽しめる環境作りとは」ということ。
この課題というのは、この本を読んでいる私たちにも突きつけられているような気がします。一緒に考えなければならない謎です。
 
きっかけは、図書室で見つけた「あるはずのない本」という謎だったのですが、その謎を追ううちに現れる、さまざまな別の謎や課題を解いていくはめになるふたり。
10年前の事件についての驚きの事実や謎解きも読みどころなのですが(誰とはいいません、決して誰とははっきりいいませんが)ものすごく不器用で、ものすごくもどかしい、とてもちいさな恋愛要素もあるんです。
読んでいるこちらが思わず赤面してしまうような。
 
美しい心を見失ってしまった大人たちにも読んでもらいたい。
もちろん中高生には、そのままの素直な気持ちで読んで欲しい。
 
美しく愛おしい、青春の日々。
 
 
 
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