広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.365『もつれ星は最果ての夢を見る』市川 憂人 著 PHP研究所
「シュレーディンガーの猫」という思考実験がある。
猫と毒薬を外界から内部を確認できない箱に入れて放置する。箱の中の猫は毒薬によって死んでしまうか、運よく生き残るかを一定時間の後、箱を開けて観測するのだが、箱の中の猫は観測されるまで、「生きている猫」と「死んでいる猫」の両方が同時に存在するというものだ。
猫好きにとっては憤慨もの話だろうが、この「猫の生死が観測されるまで確定できない」は量子について知るために、そして我々の世界の在り方を知る手がかりでもある。
『もつれ星は最果ての夢を見る』は量子力学を応用した科学技術によって、量子テレポーテーション通信や恒星間航行が可能となった近未来が舞台。宇宙開発コンペに参加させられた中小企業のプログラマー・夜河零司は、相棒のAI・ディセンバーと地球から十光年離れた未開の惑星に降り立つが、そこで見たのは競合相手の無残な銃殺死体だった。
情報通信はリアルタイムだが、移動は10年単位という壮大な仕掛けによって、広大な宇宙はクローズド・サークルとなり、未来の科学技術でトリックが構築される。しかし、量子力学発想をもってロジカルに読み解けば、真相を探し当てることが出来ます。SFでもありますが、『読者への挑戦状』がある本格ミステリーであることが本書の面白さです。
本書で描かれる仕掛けやトリックは単なる舞台装置ではなく、現代の量子力学技術の延長線上にあります。きっと数十年後の名探偵コナンに本書のトリックが使われるのではないか?と妄想しています。
【Vol.101〜Vol.150 2019年12月2日 - 2020年11月9日】
【Vol.51〜Vol.100 2018年12月17日 - 2019年11月25日】
【Vol.1〜Vol.50 2018年1月15日 - 12月10日】