広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.70

蔦屋書店・丑番のオススメ 『西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガを描くのではない。そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい。』、『西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガ家にはなれない。かけがえのない誰かだけが、君をマンガ家にする。』講談社、『マンガ家になる!ゲンロンひらめき☆マンガ教室第1期講義録』ゲンロン 西島大介、さやわか

 

 

アーティストや映画監督、ミュージシャンなど実作者による批評・芸術論を好んで読む。ときに、ジャンルの枠組み自体を問うような本に出会うと胸が高鳴る。例えば、ミュージシャンの大友良英さんが書いた『MUSICS』(岩波書店)。大友さんは、『あまちゃん』のテーマ曲でも知られる世界的な音楽家だ。『MUSICS』は大友さんが音楽とは何か?を、つきつめて考えた本だ。章立てを眺めるだけでも面白い。第1章は「ノイズ」から始まる。音楽の本なのにノイズ(=騒音)について考えることから始まる。大友さん自体が音楽を拡張させている音楽家であるが、音楽の概念を拡張させる音楽論になっている。それでいて、読みやすく、わかりやすいのが素晴らしい。批評家が書く、芸術論はとかく難解になりがちだが、実作者が書くと、実作者ならではの本質をとらえた上で、わかりやすく表現されるので、読者としてはありがたいことだらけだ。

 

 

今回ご紹介したいのは、実作者による、素晴らしいマンガ論である。「マンガ」・「マンガ家」という概念を拡張させ、しかも読みやすく、笑えて、さらに、これらの本を読むとマンガ家になれてしまう!という。

 

マンガ家の西島大介さんと物語評論家のさやわかさんによるマンガ志望者・マンガ家への講義をおさめた3冊だ。この本も章立てをみるだけでも、著者たちのマンガへの考えの一端が感じられる。

「描く-絵について」、「完成させる-コストについて」、「読ませる-物語について」、「需要について」、「媒体について」。

 

マンガ学校というと、通常はコマの構成の仕方とか、ペン入れの仕方となるのだろうけど、そんなものは一切教えない。絵については、「うまくならないくていい」、「物語なんてどうでもいい」ということをマンガ志望者たちにさまざまな課題を通して伝え続ける。絵については、コストに見合った時間で描けて、かつ掲載される媒体やテーマにあった絵柄を選べばいいと。トレースは絶対NGだけど、コマ割りは流用してもOK。手抜きでも手抜きにみえなければOK。

マンガにおける物語とはストーリーではなく、文字情報のことだと。下記のように西島さんは語っている。

 

(『FAIRY TAIL』の絵に『DRAGON BALL』や『ONE PIECE』の文字情報を入れて置き換えてみたものを生徒たちと確認したあとで。)

西島:つまり読者が作品固有の「ストーリー」だと思っているものは代替可能なんだよね。コマが連続する中で、一連の文字情報が続いていればなんとなくマンガになる。

 

その後、生徒たちが書いてきたアンケート(=文字情報)をマンガにするという課題で、そのことを証明しています。

 

 

とはいえ、それで書いたマンガに需要があるかというのは、別問題です。そして続くのが「需要について」、「媒体について」の章。自分が書いた作品に需要がない場合、自分が間違っているか、もしくは社会が間違っているかの2択だが、著者たちはそこに第3の選択肢、居場所が間違っている、を提示する。『ジャンプ』に掲載されなくても、『コミックビーム』になら、『anan』になら掲載される作品もあるということ。さやわかさんは以下のように言います。

 

さやわか:「いきなり世界全体を変えることはできないけど、目の前にいる人や、その人との関係を変えることができる」ということです。そして、次々に目の前を変えていくと、最終的には自分にとって新しい世界が広がって、世界は変わっていきます。

 

 

マンガ志望者のみならず、マンガ好きな方に読んでほしい3冊です。

 

 

 

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