広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.172

蔦屋書店・小野のオススメ 『七面鳥 山、父、子、山』レ・ロマネスク TOBI/リトルモア
 
 
皆様。「レ・ロマネスク」をご存じだろうか。
映画「男と女」で有名な歌手ピエール・バルーにパフォーマンスが認められバルーと一緒に暮らしてたり。パリシネマ国際映画祭ではジェーンフォンダと共に公式マスコットになっちゃってたりフランスの人気番組に出演その映像がyoutubeの再生回数フランスで国内1位。世界で4位を記録しちゃったりしている。
フランスで最も知られた日本人としてフジロック出演を機に日本へ帰国した、昭和ムード歌謡とテクノポップを融合させた楽曲をせっせと発表している音楽ポップユニットだ。
私が彼ら(厳密にはその当時は彼だけだが)に出会ったのはテレビの中。
広島のありとあらゆるところを颯爽に軽快に出没するピンクの物体に見ちゃいけないものを見てしまった衝撃。
明らかにハンドメイドなピンクの衣装がテレビに出て大丈夫なものなのか心配になったぐらいだった。
出会ってから5年あまり。私は広島でのイベントはコンプリートするほどのレ・ロマネスクのトリコになっている。
何が魅力で惹きつけられるのかがいまだに判明していない。
彼に襲いかかる様々な珍事に涙を流しながら笑いライブでのファンに対してちょっぴり高圧的な振り付け指導。
友人に初めは新種の昆虫を見つけて喜び勇んで報告するが如く「おもろいもん見つけたんよ!レ・ロマネスク!」と声高らかに自慢していたのだが、最近はファンであることは公表していない。
今は「へぇどんな人なの?」と言われた時に「どんな人」を説明することが極めて難解であること。
説明がまどろっこしく、すかさずググってビジュアルを発見した時の友人の怪訝な表情を見るにつけ「ファン」であることは、人間関係に悪影響を及ぼすのではないかという自己防衛がそうさせる。
そんな大好きなTOBIさんが本を書いた自身と父フミャアキとの親子小説。
(重松清先生も絶賛なら間違いない。)
ライブMCでも毎回おなじみのあのお父さんネタ。
「お父さんが女装で運動会にやってきた事変」の真実が明らかとなるのか。
なぜにどうなって息子は父のクオリティをはるかに超えるピンクの王子様になったのか。
きっと「あの女装おじさんと現役ピンクおじさん」との人生ぶつかり稽古は落語のように軽快であったに違いない。
運動会女装事変のことと次第が明らかになるのではと期待に胸を弾ませページをめくり進めた。
 
人生において。
小さなことから大きなことまでありとあらゆるトラブルはつきものだ。
TOBIさんはいわゆる「些細な皆にも起こりうる」ようなトラブルから「どうしてそんなことが起こってしまうのか」というミラクルトラブルまで起こしてしまう多種多彩なトラブルデパートであることはファンの間では周知の事実ではあるが、ページを進んでいくうちに、その発端、根源、起源!はこの父「フミャアキ」にあるのではないかと感じるほど家族や近しいものは木っ端微塵に振り回されブン飛ばす台風のようなフミャアキ。
外ヅラがよく人気者のフミャアキはさしずめ台風の目のように存在する。
家族にとってこれほど過酷なことはないが、生まれ持った天性の求心力で彼の欲望はドンドン暴走、膨張していく。
台風を地でいく男「フミャアキ」。嵐を呼ぶ男ではなく彼が嵐そのものなのだ。
「憎めない」の一言で全てが収まるに余りある破天荒ぶりは観客としてこれほど面白いことはない。
今まで聞いたライブやコラムで知り得るTOBIさんの自虐話は出来事として相当に最悪で劣悪な事がとめどなく訪れにもかかわらず
「お気の毒に」との同情をかう事も「気にしんさんな」と励まされることもない。
悲壮感を感じることも、こちらが何かリアクションをしなくてはいけないというプレッシャーもない。
「そんなことに俺負けてねぇ〜し」的な気概などは微塵も感じないそこが不思議で心地よく魅力的だ。
案外大変なことをぬるっと言ってのける「おとぼけおじさんの戯言」は「フミャアキ譲り」の何物でもない。
この本を読んでレ・ロマネスクの「KASOCHI」の歌詞が深く感じられる私は当分ロマネスク中毒から抜けられないだろう。
 
 
 
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