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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.271『香川にモスクができるまで』岡内大三/晶文社

蔦屋書店・竺原のオススメ『香川にモスクができるまで』岡内大三/晶文社
 
 
まず、モスクとは何か。
つまるところモスクとは、イスラム教における礼拝堂であり、ムスリム(イスラム教徒)たちはそのモスクでお祈りを捧げたり、集会をしたりする。
またモスクは全世界に400万近く存在するとされているが、その建築物としての美しさから、所に拠ってはムスリム以外の人が多く訪れる、ある種の観光地となっている場所もある様だ。
勿論、用語としてこの言葉を知っている人は多いと思うが、その実像を知っているという方は少ないのではないかと思う。
その意味で本作は、単なる建造物として、あるいは人々が集まる場所としてのモスクに留まらない、モスクが持つそれ以上の意義や価値を実体験と共に教えてくれる得難い文献と言えると思う。
 
本作は、海外居住やバックパックでの旅を通じて異文化に触れて来たライター/編集者の岡内大三さんが「イスラム教徒についてもっと知りたいな」と思っていたタイミングで聞きつけた「香川県でモスクをつくろうとしているインドネシア人がいるらしい」という情報に端を発したルポである。
 “モスクとはどのような存在なのか”をはじめ “イスラム教とはどの様なものなのか”を紐解きながら、広義での多文化共生を問う内容になっており、多くの点で学びの多い一冊だ。
同時に、作中でモスク建立のキーパーソンとなっている香川県在住のフィカルさんを筆頭とした香川県内インドネシア人コミュニティの活動に焦点を当てたドキュメントとしても捉える事が出来る為、その奮闘の模様を楽しみながら読み進められるノンフィクションと呼ぶ事も出来るだろう。
 
本作は全16話から構成されており、2019年に(前述通り)香川県でのモスク建立の噂を聞きつけた岡内さんが現地に向かい、モスク建立計画を進めるコミュニティのリーダーであるフィカルさんと出会う所から始まる。
時にフィカルさんのこれまでの人生を回顧しながら、モスク完成までの波乱万丈の物語を味わう事が出来るので、読んでいる側としては“自分事”として没入して行く事となる。
様々な障壁に立ち向かいつつも、最終的にモスクは“建つ”訳だが、それまでの経緯を事細かに窺い知っている読み手としては、何だか感動するというか、達成感の様なものを得られさえする。
 
「モスクを通じて日本社会との懸け橋になりたい」という目標を持つフィカルさんたちの活動をこれからも陰ながら応援して行きたいと思うと共に、どんな事があっても挫けないその姿が元気と勇気を授けてくれた事に、心から感謝を申し上げたい。
 
 
 
 

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