include file not found:TS_style_custom.html

広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.367『白鷺立つ』住田 祐 著 文藝春秋

蔦屋書店・江藤のオススメ広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.367『白鷺立つ』住田 祐 著 文藝春秋
 
欲にまみれた物語ではある。
だが、とても崇高で、ある意味純粋な思いが閾値を超えた美しい物語でもある。
 
舞台は比叡山延暦寺、時は天明の飢饉の傷がまだ瘉えぬ頃
主役は、千日回峰行に挑む二人の僧
これは、やり遂げるか死ぬか、その2つの選択肢しかない行である。
 
千日回峰行とは、仏教でも最も過酷と言われている修行で、7年~9年かけて、約1000日以上、山中を歩き260箇所の礼拝所を巡ります。わらじを履き1日約40キロの山道を歩くことになり、その途中には9日間飲まず食わずで真言を唱える「堂入り」という難行もあります。もちろん病気や怪我、悪天候などあっても中断は許されず、行者は首をくくるための紐と腹を切るための短刀を持ち、途中で断念する場合は死を選ぶしかないという難行です。
 
ここで書かれるのは、その千日回峰行がもっとも大きな柱となるのですが、それだけではありません。その難行に挑む僧のモチベーションの闇の深さ。そして比叡山における政治、力関係や序列、そしてさまざまな欲。
この物語で、千日回峰行に挑む僧ふたりには、実は出生に関しての秘密があります。
この世に存在してはならないが故に寺に預けられ、そこから出ることは一生許されない。だからこそ、この世に存在していたという証を残すことに執念を燃やすのです。
 
しかし、存在してはならない命ですが、逆にその理由から殺すこともならない命でもあるのです。であるから、やり遂げられなければ死ななくてはならない千日回峰行は、お寺としては絶対にさせてはいけないことでもあるのです。
しかし彼らはそれぞれその執念と計略によって行に入ることになります。

ここでひとつ、この本を紹介するにあたって、どうしても避けては通れぬ種明かしをすると、先に千日回峰行に入ることになる僧とその後に千日回峰行に入ることになる僧は、師弟関係なのです。そして、弟子はものすごく優秀で、知力体力共に申し分なく、千日回峰行を成すべき僧ではあるのですが、傍若無人で、師のことを師とも思っていないような非常に無礼な態度をとるのです。もちろん彼を千日回峰行に挑ませることは絶対にしてはならないことであり、また師も絶対に彼を挑ませまいとするのですが。
 
ふたりの僧の持つ秘密とは、そして彼らがなぜそこまでこの千日回峰行にこだわりを見せるのか。そしてふたりの動きは比叡山全体を巻き込む大きなうねりを呼び、読者の予想を裏切るような強烈な結末を迎えます。
 
いくつもの欲や名声やお金にまみれた比叡山での物語。
ひどい話ではあるのですが、読了後には心が澄んだような晴れやかな気持ちになるのがこの小説の凄いところ。
ぜひ読了して、この物語がなぜそんな晴れやかな結末を迎えるのかを体感して欲しい。

この本を知らない人にぜひとも!とおすすめしたくなる。
非常におもしろい、今年はじめに読むのに最適な一冊かもしれません。
 
 

SHARE

一覧に戻る