広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.100

蔦屋書店・神崎のオススメ『注文の多い注文書』小川洋子 クラフト・エヴィング商會/ちくま文庫

 

 

 

一編の小説から別の世界が広がり、新しい一編の小説が生まれる。そんな読書の楽しみ、創作の楽しみを教えてくれるのが本書『注文の多い注文書』だ。作家小川洋子氏と作家と装丁家の制作ユニット、クラフト・エヴィング商會のコラボレーションが五編の小説から描き出した不思議な五つの物語が収められている。

 

入り組んだ路地の奥、時代に取り残されたような、時間が止まったような空間に「ないもの、あります」の看板を掲げた店がある。クラフト・エヴィング商會だ。得体の知れない品々が並ぶこの店に五つの注文が届く。

 

好きな人に触れると、その部分が消えてしまうという女性から「人体欠視症治療薬」、サリンジャーの執筆再開を願う「J・D・サリンジャー読書クラブ」会長からの「バナナフィッシュの耳石」、たった一人の肉親である祖父を亡くし孤独な青年からの「貧乏な叔母さん」、盲目の指圧師からは客である標本商が探していたという「肺に咲く睡蓮」、最後は探しものではなく引き取ってほしいという注文で、依頼主の夫が手に入れた「内田百閒の『冥土』の落丁本」

 

どれも五編の小説に登場するか、まつわるもので「あるはずのない」ものだ。探してほしいと届いた注文書は真剣で切実。探してほしい理由や、そこに至るまでの過程が綿々と綴られていて、中には鬼気迫るものもある。クラフト・エヴィング商會は長い時間をかけて注文された「あるはずのないもの」を探し出し、依頼主に届ける。

 

物語は「注文書」「納品書」「受領書」で構成されるが、注文の品を本当に見つけることができたのかどうかは是非、納品書に添えられた写真を見ながら確認してほしい。この写真が現実と幻想をさらに曖昧にし、物語に不思議な魅力を与えている。

 

本書の最後にクラフト・エヴィング商會と小川洋子氏の対談が載っている。

 

たいていの場合、「ない」んじゃなくて、まだ知らないだけなんです。

 

どんな難しい注文でも「時間をかける」というエネルギーを使えば、必ず「ある」に辿り着けるんですね。

 

さて、これまで「ない」とあきらめていたものを探しに行こうか。

 

 

 

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