広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.96
蔦屋書店・丑番のオススメ『文庫本は何冊積んだら倒れるか ホリイのゆるーく調査』堀井憲一郎著/本の雑誌社
くだらないことに真剣になるって素敵です。直接的には、役に立たないもの。もしかすると文化というものの一側面は、そうしたくだらないもの、役に立たないもので、成り立っているのかもしれません。
ちょっと大上段に構えすぎてしまいました。文化について語るのはわたしのキャパを超えてしまうので、それくらいにさせていただいて、堀井憲一郎さんについてお話をさせてください。
週刊文春で連載されていた堀井憲一郎さんの『ホリイのずんずん調査』(1995年-2011年まで連載)は、ほんとうにくだらなかった(ほめてます)。そして、すごかった。くだらないことを真剣になって調べている。大人が。その調査結果が毎週1ページに表とともに掲載されていました。どれくらいくだらないことを調べていたかというと、例えば以下です。
「チョコボールの金のエンゼルと銀のエンゼルの割合はどれくらいなのか?」「郵便ポストの回収は時間どおりに来るのか」「西部劇で発泡されている弾の数を数える」「サンタを信じていますか」「川上哲治の球が止まって見えたが変化していく過程」「サッカーのFKで股間を守る国、守らない国」「恋人同士がともに過ごす日としてのクリスマスはいつから始まったのか」「シンデレラエクスプレスで本当にキスしているカップルはいるのか」
※シンデレラエクスプレス=東京発大阪着の東海道新幹線の21時の最終列車のJRのバブル期のマーケティング的呼称。週末を東京で過ごした遠距離恋愛のカップルの別れにシンデレラが重ねられていた。
くだらない!(ほめてます)けど、結果が気になる!
何を調べるかというところのチョイスにセンスがあふれてます。若干意地悪な視点もありますね。そのテーマをちゃんと調べて、書くというのが堀井さんのスタイルです。チョコボールを買ってひとつひとつ封をとってエンゼルを確認していく。1000個以上のチョコボールをあけて集計をとっていく。大変。
表になった調査結果をみると、何かを語りたくなります。
また、わずか1ページの調査が、1冊の本になったこともありました。「恋人同士がともに過ごす日としてのクリスマスはいつから始まったのか」は『若者殺しの時代』(講談社現代新書)として、まとまっています。それだけのネタがわずか1ページにまとまっていたという贅沢!この贅沢が文化的豊かさでないでしょうか。
まったくの余談ですが、書きながら思ったのは、いまのネットのおもしろ記事の原型のひとつに堀井さんの「ずんずん調査」があるのかなー、って思いました。デイリーポータルZとかで取り上げられていてもおかしくなさそうな。ちなみに『ホリイのずんずん調査』は『かつて誰も調べなかった100の謎』(文藝春秋)として、まとまっています。
本についてのくだらないことを調べた堀井さんの新刊が、『文庫本は何冊積んだら倒れるか』です。『本の雑誌』で連載されていたものが1冊にまとまりました。
「昔の小説の横文字を調べてみる」「岩波文庫〔緑〕の欠番を調べてみる」「名作の段落を数えてみる」「ジャンバルジャンはどれぐらい出てこないか」「新旧ボヴァリー夫人の変化を追う」「吾輩は猫であるを注だけで読む」「名作文庫の上下巻の部数をくらべてみる」
などゆるーく、くだらないことを調べています。率直にいうと、『ずんずん調査』のように、調査結果に驚きがあるという本でありません。
この本は、調査という手段を用いて本の周辺を周遊しながら、本がもつさまざまな魅力を浮き彫りにさせてくれる一冊です。本の読み方、本のサイズ、古典について(読書子に寄す)、絶版本について(あの本が絶版なのか!)、古本について、脚注、文庫本の解説について、文学賞について、積ん読、途中で放り出してしまう本について。本の並べ方について。本ってこんなに語ることがあるというのを、調査という切り口で、楽しませてくれる素晴らしい一冊です。
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