広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.80

蔦屋書店・丑番のオススメ 『ドライブイン探訪』橋本倫史 著/筑摩書房

 

 

ドライブインというと思い出す映画が2つある。

 

鈴木則文監督、菅原文太・愛川欽也主演の昭和50年から昭和54年にかけて公開された『トラック野郎』シリーズ。そこで描かれるドライブインは、顔なじみのトラック野郎たちとご飯を食べて、ワイワイやる場。各作品のマドンナとの出会いの場でもあった。人が集う賑やかな空間だ。

もう一本は青山真治監督、浅野忠信主演の『Helpless』(平成8年公開)。山あいのドライブインは寂れており、お客さんもほとんど訪れない。陰惨な事件の舞台となってしまう。

 

サービスエリアや道の駅がお客さんを集め、大きな駐車場をそなえたコンビニが増えていくなかで、ドライブインは存在意義を失いつつある。かつての賑やかな場から、その喧騒も消えてしまった。ドライブインの店主も高齢化が進む中、廃業するドライブインも増えている。

失われつつある文化。ドライブインに携わっているひとびとの物語。誰かが記録しておかないと、その物語は永遠に失われてしまう。

 

本書『ドライブイン探訪』はその記録である。

著者は2011年から友人から借りた軽バンで200件以上のドライブインを訪れたという。そこでとくに印象深いお店に取材許可をとるために再訪する。その際は公共交通機関を利用するという。その理由を著者は以下のように書いている。

 

何十年と店を続けてきた方に、いきなり「取材させてもらえませんか」と話しかけるのは気が引けて、まずはビールとつまみを注文する。そこから二杯、三杯とグラスを傾けるうちに、店主の方がぽつぽつと話しかけてくれる。そうして何時間か過ごして帰り際に「今度取材させていただけませんか」とお願いをする。

 

そして、取材のために再々訪するという。恐ろしくコストのかかった取材だ。ドライブインは最良の記録者を得た。

 

この本の読みどころは、ひとりひとりの店主の語りがドライブインという場所からみた日本の戦後史になっているところだ。モータリゼーションの幕が開き、都市と都市を結ぶ道路がつくられる。自家用車の保有世帯が増加する。高度経済成長で余暇の時間ができ、観光バスにのり、観光地を巡るという観光形式が誕生する。そんな大文字の歴史に対して、ひとりひとりの個人が反対側にいる。ドライブインの店主たちだ。時代の流れをどのように受け止め、歩んできたのか。著者が聞き取るひとりひとりの言葉は、それぞれに似て、それぞれに異なっている。ドライブインを巡るというある意味ノスタルジックな営みが戦後の歴史を浮かびあがらせるのだ。

 

 

 

 

【Vol.79 犬丸のオススメ 『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと 常識をくつがえす“病院・医者・医療"のリアルな話』

【Vol.78 蔦屋書店・江藤のオススメ 『幽霊人命救助隊』】

【Vol.77 蔦屋書店・神崎のオススメ 『憂鬱な10ヶ月』】
【Vol.76 蔦屋書店・西倉のオススメ 『なにものにもこだわらない』】

【Vol.75 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』】

【Vol.74 蔦屋書店・西林のオススメ 『あのねあのね』】

【Vol.73 蔦屋書店・丑番のオススメ 『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム 1992-2019』】

【Vol.72 蔦屋書店・江藤のオススメ 偶然の聖地

【Vol.71 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『培養肉くん1』『培養肉くん2』】

【Vol.70 蔦屋書店・丑番のオススメ 『西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガを描くのではない。そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい。』、『西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガ家にはなれない。かけがえのない誰かだけが、君をマンガ家にする。』講談社、『マンガ家になる!ゲンロンひらめき☆マンガ教室第1期講義録』】

【Vol.69 蔦屋書店・江藤のオススメ 『人喰い ロックフェラー失踪事件』】

【Vol.68 蔦屋書店・花村のオススメ 『父は空 母は大地―インディアンからの伝言』】

【Vol.67 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『天然知能』】

【Vol.66 蔦屋書店・神崎・花村のオススメ 『カミングアウト・レターズ  子どもと親、生徒と教師の往復書簡』】

【Vol.65 蔦屋書店・丑番のオススメ 『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』】

【Vol.64 蔦屋書店・江藤のオススメ 『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』】

【Vol.63 蔦屋書店・神崎のオススメ 『拝啓、本が売れません』】

【Vol.62 蔦屋書店・花村のオススメ 『鈍感な世界に生きる 敏感な人たち』】

【Vol.61 蔦屋書店・江藤のオススメ 『おやすみの歌が消えて』】

【Vol.60 蔦屋書店・西林のオススメ 『坂の途中の家』】

【Vol.59 蔦屋書店・花村のオススメ 『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』】 

【Vol.58 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『四次元が見えるようになる本』】

【Vol.57 蔦屋書店・丑番のオススメ 『少年の名はジルベール』】

 

SHARE

一覧に戻る

STORE LIST

ストアリスト