広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.72

蔦屋書店・江藤のオススメ 『偶然の聖地宮内悠介 / 講談社

 

 

まず時を止め、この世界を書いているプログラムにアクセスしてエラーを修正していく。つまりこの世界のデバッグを行うのが、世界医と呼ばれる者達の仕事である。

この世界に起きる奇妙な現象、例えば琵琶湖の底とパキスタンを繋ぐワームホールが突然現れてしまい、人が瞬間移動してしまう。例えば夏の後に短い春が来てしまう。

 

このような不可解な現象は、この世界のプログラムを書いた神と呼ばれるものが、へたくそなプログラムコードを書いてしまった事によるエラーなのだ。

とこの物語では語られる。そして、そのエラーを人知れず、世界医が治してまわっているのだと。

 

様々なエラーが複雑に絡み合い、スパゲティのように絡み合ったコードを美しく整った正しいコードに書き換えていく。

だが、今までどの世界医も治すことができなかった最大級のエラーがこの世界には存在する。

それが、どうやったらたどり着けるのか、誰もその正解がわからない、偶然たどり着く聖地「イシュクト山」だ。

 

どうだろう。わくわくしませんか。

この小説の雰囲気をなんとなくわかりやすく(わかりにくく)書いてみたのですが、僕はこのへんですでに高まります。わくわくが止まりません。

 

この小説の中では、先ほど紹介した(おそらく)メインの筋書きは、実はさほど重要視しなくてもいいのかもしれません。

 

章ごとに登場人物も代わり、物語の語り口調も変わり、話の方向性も変わります。

それぞれの登場人物と物語は、全くかかわり合いを持ちそうに無いのですが、でもやっぱり全ては繋がっているのです。そして、全員が一同に会するラストシーンは、やっぱり最高に高まります(なんと世界医同士のデバッグ対決などもあります)。

 

ある物語では、友人を亡くしたイシュクト山に再び挑戦しようとする旅人が登場。

ある物語では、世界のエラーをデバッグしていく世界医が活躍。

ある物語では、突然部屋に現れたミイラ化した死体の謎を追う警察官が登場。

ある物語では、最後の秘境と言われるイシュクトへ、祖父の残した子供を探しに行く若者とその相棒が登場。

 

様々な物語がごちゃごちゃと進んでいき、混ざり合ってわけが分からなくなった頃に、イシュクトが現れます。

 

さあ、そこで一体なにが起こるのか。

 

宮内悠介がそのたぐいまれなSF的発想力で、適当に面白そうな話をとりとめもなく書いているように見せかけて(いやそのままなのかも)緻密な計算に基づいて設計しているプログラムのようなこの作品。

 

読んでいてもわからない言葉やエピソードがたくさん出てきますが、安心してください。なんとこの本には、300を越える注釈がつけられているのです。この注釈を拾っていくことによってわかりやすく(いやよりわかりにくく)させてくれる親切(不親切)な設計になっていて、初心者にも安心(ではない)のです。

 

まあ、あまり真剣に読むのは、態度として間違っているような気もします。注釈は本気で読まずに、DVDの特典によくある、オーディオコメンタリーみたいなものだと思って読み流しながら(がははと笑って)わからないところは、まあいいかとスルーして(ぶははと笑って)読めばいいんじゃないでしょうか。

 

最高に楽しい読書時間を過ごせると思いますよ。

 

 

 

 

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