広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.79

蔦屋書店・犬丸のオススメ 『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと 常識をくつがえす“病院・医者・医療"のリアルな話』市原真 著/大和書房

 

 

ヤンデル先生

 

わたし、病院が嫌いです。

だから、わたしが行くときはかなりまずい状況なんです。「なんか、とんでもない病気ではないだろうか…。」と、思ってしまうくらいの激痛。這うように病院に向かいます。なのに待合室で長時間待たされ緊張し、悪い診察結果と痛い治療を想像し、クラクラしています。

やっと順番が来ても、お医者さんと上手く話せません。だって、なんだか怖いでしょ。注射とかされたら嫌だし…怖いから。患部を触って「ここは、どうですか?痛いですか?じゃ、ここは?」と言われても、もう痛すぎて、どこが痛いのかわからないです。心の中では「もっと違うところを押さえてくれたら、もっと痛いところがあるかもしれないけど…、でも、そこも痛いかもしれない。先生が触るところが、痛くなるところなんだろうか…。でも、肩を揉んでもらっているわけでもあるまいし。あー、もうちょっと下、下、なんて言うのは失礼なんじゃないかな…。うーん。どうしよう。全部が痛いような気もするし、痛くないような気もする。」とか思いながら、大体のところで「あ…。はい…。」と答えてしまいます。

診察結果は、胃炎。またもや心の中で「胃炎。胃炎かー。ストレス性ナントカとかじゃないのかー。こんなに痛いのに。痛いのを我慢して普通の顔してたからかなー。でも、痛い顔なんてできないし…。痛い顔したら、他の検査もしてくれたんだろうか?それはそれで怖いし。」なんて、考えているからお医者さんがなんか言っていても、正直聞いてません。

お薬を出してもらって、病院に行った実績だけは確保しますが、なんだかヘトヘトです。その上なんだか、いつも不満足。

 

でも、ヤンデル先生。

 

この本を読んで、わかりました。わたしに足らなかったのは、コミュニケーション能力でした。こちらが何も言わなくても、どこからかナントカの名医なんてのが現れ、症状を診るなり劇的な病名を告げるなんて、そんなことはあり得ないのです。というか、どこかで劇的な病名すら期待していたのでしょうか。「なんだー。ただの胃炎かー。」と大きな安心とともに、ちょっとがっかりしていたのです。

ヤンデル先生が病院を選ぶとき「人の良さ」を判断基準の一番上に置くというのには驚きました。なるほど。現代の医療は原則エビデンスに基づいていて、症状によってどんな検査や治療をしたらよいのかも統計的に示されているのだから、そうそう差異はない。よっぽどのヤブ医者と詐欺師以外は。それを知って、病院選びが変わりました。最近は便利ですね。口コミなるもので、どんな先生なのかを事前にチェックできます。その中に「とにかく丁寧に診察してくれる」という眼科があったのです。わたしも先生に伝えたいことを頭の中で箇条書きにし診察に臨みました。やっと。やっとです。診察で満足感を得ることが出来たのです。

思い起こせば、今まで診ていただいたどの先生も「どうしました?」と聞いてくれていました。適格な診断、必要な検査も受けてきています。不満足だったのは、症状を伝えきれなかった自分にだったと今では思います。

これから先どんな病気にかかろうとも、前向きに戦えそうな気がします。病院に行けば、その病気にかかわるすべてのプロフェッショナルな人達とチームとなり、わたしにとって最良の道を選択してくれるでしょう。

 

ヤンデル先生、ではまた…。

 

この一冊は、わたしにとって恐怖の館でしかなかった病院という場所の幕を開けてくれた。中から手招きしてくれるヤンデル先生とともに「へえーー。病院ってこうなってるのかー。」と覗き見ることができる。

そして、そこにいるのはプロフェッショナルな「人」だ。病院へは、医療という「モノ」を買いに行くのではない。患者という「人」とプロフェッショナルな「人」との繋がりが、病気への不安や孤独感を軽くするのだと信じることができるだろう。

病院が嫌いな人にこそ、読んでもらいたい。

 

 

ヤンデル先生・市原 真(いちはら しん)

1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)研修後、札幌厚生病院病理診断科へ(現、同科医長)。医学博士。病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、細胞診専門医。日本病理学会学術評議員。Twitterでは【病理医ヤンデル( @Dr_yandel)】として知られ、医療に関するツイートから軽快なギャグまで幅広く、日々タイムラインを盛り上げている。(本書より)

 

 

 

 

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