広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.78

蔦屋書店・江藤のオススメ 幽霊人命救助隊』 高野和明 文藝春秋

 

 

この前泣いたのっていつだったっけ。

大人になると、なかなか泣く機会が無い。

さすがにこの歳になると転んで怪我をして泣くなんてこともなければ、仕事でうまくいかなかったり、ミスをしてしまっても、そのたびに泣くわけにもいかない。

 

しかし、泣きたくなるようなことは生きていればいろいろあるもので。

結果、もやもやが心の中に蓄積されていたのだ。

 

なにが言いたいのかというと、この本を久し振りに読み返してみたのです。

すると、不覚にも泣いてしまいました。

そうすると、もやもやと溜まっていたものが少しは流されてほんの少し心が軽くなったような気がした。

 

そうだ、たしか昔に読んだときにも、嫌なものを流してくれた気がする。

この小説にはそんな力があるのです。

 

最近テレビを見ても、ニュースを見ても、ネットを見ても、感じることがある。

いつからこんなに不寛容で優しさのない社会になってしまったのだろう。

 

「死にたい奴は勝手にひとりで死んでくれ」「人間の中にもある一定数の不良品がある」「犯罪をしそうな人や、社会に必要のない人は、先に排除してしまおう」

 

そんなバカな!って思う。

ひとりで死ねなんていうな、死なないでくれと言わなければ。不良品だなんていつだれがどうやって判断するんだ。そして、あなたが絶対に排除される側にならないなんて保証は無いんですよ。

弱者も仲良く一緒に生きていくために、社会生活を送っているのではないでしょうか、私達は。

 

そんなふうにどんよりしていた僕をこの本は救ってくれるのです。

 

自ら命を絶ってしまった4人が天に召されることなく、どこにも行けない崖の上で出合います。そして、突然現れた神にミッションを与えられます。地上に戻り、自殺しようとしている人を100人救えと。

 

最初は当然のごとく乗り気でない4人ですが、自殺志願者を目の前でみるとさすがにほっておけません、しかし幽霊である彼らは直接現世にいる人からは見えませんし、触ることもできませんし、通常の会話もできません。それでも夢中で救おうとする彼らは、神からもらったアイテムの使い方を徐々に学び、そして、自殺志願者を救うためのノウハウを少しずつ身につけていきます。

 

死のうとしている人間を救うのは簡単ではありません。しかし、彼らは、手を尽くし、言葉を尽くし、心を寄せて、その人を理解して、不器用だったりむちゃくちゃだったりしますが、たくさんの人を救います。

 

周りに合わせられず、孤独を感じ死を願う大学生には、理解し合える友人を。

うつ病になってしまった人達はとにかく病院に行き治療をさせる。

いじめられている子どもには乱暴だけど一発逆転の反撃を。

お金の悩みがある男性には、死なないことを選んだ方がメリットがあるということを。

 

死を急ぐ人たちにとにかく待てと、そしてちょっと休めと言い続けます。漠然とした死を願う気持ちも、相談すべき専門家はちゃんといてくれます。逃げるのも恥ではないし、無理して頑張る必要もないんです。

 

小説の中にはたくさんの心に刺さる場面と言葉が出てきます。

 

将来に絶望があるから気持ちがふさいでいるのではない。気持ちがふさいでいるから、将来に絶望があると思ってしまうだけだ。

 

けんかや暴力はいけない? なにを言っているんだ、この子はいじめという暴力をさんざん受けてきた、ぶん殴るよりもたちが悪い。今まで袋叩きにあっていたんだ。この子には反撃をする権利がある。さらには、相手には自分のやったことの重大さを思い知らせなければならない。

 

かわいそうに、あいつは誰にも助けてもらえないで、たった一人で死んでいったんだ・・・もっと早くに見つけていれば助けられた。俺たちはやつの命を救えたんだ!

 

なかでも、もっとも僕の心に刺さった名言を紹介させてください。

 

「未来が定まっていない以上、すべての絶望は勘違いである」

 

文句を言いつつもたくさんの人を救っていった救助隊の4人は、果たしてどのような最後を迎えるのでしょうか。

それは本を読んで、皆さんに確認してもらいたいと思っています。

そして、読み終わったあなたに、一番刺さった場面を教えてもらいたいです。

 

それを聞いた僕はきっと

「そうそう、あれは刺さるよね。わかるよ。実は僕もね、、、」

なんて話をして止まらなくなると思います。

 

あなたは孤独じゃないんです。

この本がついています。

そして、この本を読んで救われた仲間もたくさんいます。

 

僕もその仲間のひとりです。

 

 

 

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