広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.95

蔦屋書店・丑番のオススメ『私のイラストレーション史』南伸坊著/亜紀書房

 

 

その時点で先端的だったものが、当たり前のものとなってしまい、後の時代からその表現に接すると、その本当の凄さがわからないことがあると思います。

 

先日、イラストレーターの和田誠さんが亡くなられました。

和田さんの本当の凄さ、偉大さも、もしかすると、同時代に生きていないと理解されにくいものかもしれません。

 

 

そう思ったのも、今回ご紹介する南伸坊さんの『私のイラストレーション史』を読んだからです。南伸坊さんは、漫画雑誌『ガロ』の編集者としてキャリアをスタートさせ、イラストレーター、エッセイスト、デザイナーとして活躍されています。

 

 

この本は、南さんの半生をたどりつつ、さまざまなイラストレーター・イラストレーションについて綴られたエッセイ集です。

 

 

言及されるイラストレーターたち。和田誠、水木しげる、横尾忠則、つげ義春、赤瀬川原平、林静一、佐々木マキ、安西水丸、湯村輝彦。そうそうたるメンバーです。その中で愛情と尊敬をもって語られるのが和田誠さんです。

 

 

横尾忠則も湯村輝彦もすごい。だけど、和田誠はもっとすごいんだ。という南さんの熱情が全編を貫いています。

 

 

例えばこんな一節。

 

 

1966年、(中略)この年こそが憧れの和田誠さんが、日本のイラストレーションの真のリーダーであったことがはっきりした年だということだった。

イラストレーションだけではない。グラフィックデザイン、エディトリアルデザイン、写真、雑誌文化のほんとのリーダーは和田誠さんだった。

 

 

もしくはこんな。

 

 

イラストレーションという言葉が輝いていた時代、それが日本の「イラストレーション史」だ。輝かせた和田誠さんの名前は、もちろんいまもよく知られてはいる。が、もっと!年表にクッキリしるされなくちゃと私は思っている。

 

 

そうなんです。和田誠さんがすごいとは知っていました。だけど、イラストレーションのリーダーであり、デザインのリーダーであったという捉え方はしていませんでした。

あまりにも軽やかで広範囲にわたる仕事ぶりに、その焦点が絞りきれていなかったのかもしれません。(例えば余技であるはずの映画監督としても『麻雀放浪記』(1984)といったウェルメイドな傑作を撮ってしまう!)だけど、この南伸坊さんの文章を読むと、もう一度、和田誠さんの仕事に触れたくなります。

 

 

イラストレーターとしては、復刊された名著『もう一度 倫敦・巴里』(ナナロク社)がおすすめです。デザイナーとしては、『Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集』(アルテスパブリッシング)あたりはどうでしょうか。1960年代の和田さんについては、『銀座界隈ドキドキの日々』(文春文庫)が超名著で、おすすめなのですが、残念ながら絶版です。復刊しないかな。

 

 

もちろん、『私のイラストレーション史』には、他のイラストレーターのことも書かれており、つげ義春のイラストレーションの突端性、安西水丸のイラストレーションの凄み、湯村輝彦のイラストレーションの発明の分析はめちゃめちゃおもしろいです。

 

 

それでもこの本は和田誠さんに捧げられています。本書のあとがきで南さんは、以下のように書いています。

 

 

私は自分がおもしろいと思うことをやってきた、おもしろそうなとこで、おもしろいと思うことをいろいろ工夫して楽しんでやってきた。

そうできたことを和田誠先生に感謝しよう。

 

 

 

 

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