広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.83

蔦屋書店・丑番のオススメ『内田裕也、スクリーン上のロックンロール』内田裕也/キネマ旬報社

 

 

本書は、ロックンローラー・内田裕也の映画人としての活動にクローズアップして、語り下ろされたインタビュー集だ。

 

裕也さんが亡くなられた際に、代表曲のないロックンローラーというような揶揄的な声も聞かれた。本書の中でも裕也さんが次のように語っている。

 

昔、(オノ・)ヨーコさんに言われたことがあるんだよ。「あなたはプロデュースばかりしているけれど自分では何も創り出していない」ってね。

 

確かに、代表曲はないかもしれない。しかし裕也さんが、自分で何も創り出していないアーティストというのは、間違っている。映画では、自ら企画し、脚本を書き、出演した傑作を作っている。本書は、それ以外にも錚々たる監督たちの作品に出演してきた、裕也さんの映画人生について語られている。

 

インタビュー中の雰囲気や、語り口調が再現されているのが嬉しい。例えば、ホテルのウェイトレスがゆで卵の茹で加減は、いかがしましょうかという問いに対しての裕也さんの返答がいい。

 

ハードボイルドでよろしく。

 

やっぱり、裕也さんは、半熟はロックじゃないと思っていたんだろう。本筋とは関係のないがこんなところが面白い。

 

 

また、本筋からずれて語られる裕也さんと樹木希林さんのエピソード。

 

希林さん、内田也哉子さんと本木雅弘さんとそのお子さんが暮らす二世帯住宅の新居に、睡眠薬とお酒でバットトリップした裕也さんがやってきて、新居の外で叫ぶことを繰り返していた。ある日玄関のドアが開いていたので、土足のまま新居に乗り込み「俺のほうがスゲえことやってんだ、コノヤロウ」と喚いていた。

 

そうしたら廊下の奥の暗がりから、「やっちゃいなさい」って声が聞こえたんだよ……希林さんだよ、鉄パイプ持ってるんだよ。

そこから希林さんと本木に俺、タコ殴りにされちゃってよお。最後は本木がタクシー呼んでくれたらしいけど

 

裕也さんをタコ殴りにする希林さんとモックン!

 

 

撮影で初めて訪れる東映京都撮影所にバットを持っていったというエピソード。(ちなみに京都撮影所は職人気質のスタッフが多く外様の役者やスタッフに厳しいと言われます)。

 

何しろ俺、初めての京撮じゃない?ナメられちゃいけねえって思ってね。それで金属バット担いだまま新幹線に乗って、京都まで行ったんだ。

 

金属バットを持って、新幹線!

 

木のバットは真芯が急所に当たらなければ、まあ、死にはしないよ。でも金属バットは確実だからね。さいたまスーパーアリーナの「ジョン・レノン スーパー・ライブ」の時は、木だったなあ。

 

その豆知識知りたくない!

そして唐突に語られるさいたまスーパーアリーナの件は何!真芯に当たらなかったの?

 

 

ちょっとおもしろエピソードばかり引用してしまったが、映画にまつわる箇所も、もちろん、最高である。ロックンローラーの余技でなく、スクリーン上で表現者として、ロックンロールを演奏してきたということがわかる。

 

 

最後のインタビュー本でこのような傑作を遺した裕也さんは偉大だと思う。

 

 

そして、この本で語られていない最後の「映画」の話をしておきたい。それは映画でないかもしれない。2018年8月にフジテレビで2週に渡って放映された崔洋一監督作品『転がる魂 内田裕也』だ。崔洋一監督は、内田裕也脚本・主演の傑作『10階のモスキート』を監督した。それが崔監督のデビュー作。それから35年ぶりにタッグを組んだ作品だ。

本当に衝撃的なドキュメンタリーだった。

 

冒頭。ホテルの一室でふかふかのベッドの上に横たわる内田裕也の姿。周りを囲むスタッフ。

ロックンローラーでなく、死に向かっているひとりの老人だ。

毎年恒例のニューイヤーズ・ワールド・ロック・フェスティバルに向けて、リハーサルが始まる。バックバンドの面々が音を出す。それに対して内田裕也は弱々しい声で告げる。「うるせぇよ。音が。大きいんだよ。」バックバンドの表情を見るといつも通りの音量なのだろう。バンドサウンドに耐えられないロックンローラー。

重ねて言うが衝撃的だった。よくこれを撮影させて、放送させたな、と思う。自分の弱々しい姿。情けない姿。それをさらけ出すこと。

内田裕也と崔洋一監督。表現者と表現者が戦っていた。すごいものを観たと思った。

 

 

裕也さんの最後の「映画」もすごい作品だった。つくづく偉大なロックンローラーだったと思う。ナレーションは樹木希林さん。これが最後の共演作となった。

 

 

 

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