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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.178

蔦屋書店・竺原のオススメ 『文芸ピープル』辛島デイヴィッド/講談社
 

ここ数年「日本の現代文学が海外で話題になっている」といった類のニュースを耳にする機会が多かった。
多和田葉子氏の名前がノーベル文学賞の候補者として挙がったり、小川洋子氏の『密やかな結晶』が英国のブッカー国際賞の最終候補になったり、柳美里氏の『JR上野駅公園口』は米国を代表する全米図書賞(※翻訳文学部門)を受賞したりした事は、記憶に新しい人も多い事と思う。
 
本作は、現在早稲田大学国際教養学部准教授であり、作家/翻訳家として日本文学の英訳や国際的な出版・文芸交流プロジェクトに携わる辛島デイヴィッド氏が、世界の作家/翻訳家/編集者/装丁家/書店員/文芸フェスの運営者といった、様々な形で文芸に関わる人々=文芸ピープルを取材し「世界における日本(語)文学のいま」を紐解く内容になっている。
 
例えばファッションの世界に「流行」や「潮流」がある様に、文芸の世界にもそうしたものがある。
こと日本人作家に関して言うと、多くの作家の作品が(主に)英語圏に向けて翻訳される様になった昨今において、特に女性作家の作品を積極的に見出したいという傾向があるとの事。
これは「多様性」がキーワードになっている現代社会の情勢とリンクする動きであると推察出来るが、いわゆる「出版業界」の中にいるからこそ伝える事の出来るこうした話というのは、非常に好奇心をそそられる。
 
また本を構成する要素の一つとして「装丁」があるが、この点にまつわる話も興味深い。
一例として、村田沙耶香氏の『地球星人(※英題『Earthlings』)』の英米版の表紙には共にハリネズミのビジュアルが使用されているが、それぞれ細部の見せ方が違う。
ただ単に違うだけではなく、そこには勿論理由がある…。
 
装丁の話はあくまで一例だが、本作を通して知る事の出来るあれやこれやは、担当者や近しい人間だからこそ知り得る部分が多く、そこを詳しく知る事が出来るのは辛島氏や、加えて辛島氏が関係する交流範囲の広さから来るものであり、こうした価値ある話を聞かせて頂ける事に感謝したくなる心持ちである。
 
この一冊は、日本現代文学のまさに「いま」を知る事が出来る書物であると共に、10年後、20年後に「過去の日本文学はどんな様相だったのだろう」という疑問を抱いた際に参考となる貴重な資料にもなり得る事であろう。
 
一書店員としても、あるいは単なる一読書人としても今後の糧になるエピソードがふんだんに記された作品である。
 
 
 
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