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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.372『本心』平野啓一郎 著 文藝春秋

蔦屋書店・神崎のオススメ広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.372『本心』平野啓一郎  文藝春秋
 
 
「ー母を作ってほしいんです。」
 
仮想空間がより身近になった2040年代。石川朔也は制作会社に母親のVF(ヴァーチャル・フィギュア)を依頼した。
不慮の事故で急逝した最愛の母。母一人子一人で生きてきて、母のいない空間が虚しかった。専用のヘッドセットを着ければVFの<母>が、同じ優しい眼差しで迎えてくれる。
 
母のVF作成にはもう一つ目的があった。
母が「自然死」ではなく、死ぬタイミングを自分で決める「自由死」を口にしたことだった。
裕福ではないが幸福のはずだった。母は「もう十分生きたから」と繰り返すが、朔也には納得できなかった。「きっと何かある」その『本心』が知りたかった。
 
けれどVFの<母>の口から母が「自由死」を望んだ思いが語られることはなかった。
朔也は母を知る三人に会う。母が最後に働いていた旅館で一番仲の良かった若い女性、母の「自然死」を認可した主治医、そして母が愛読していた小説家。母の「本心」にたどり着くことはできなかったが、母が歩んできた人生を知り、母が秘めてきた朔也自身の出生の秘密に直面する。
 
物語は格差が広がるあっちの世界(富裕層)とこっちの世界(低賃金労働者層)、死ぬことと生きること、仮想空間と現実世界、AIと人間ーなど、相対するいくつもの要素が絡み合いながら進んでいく。
 
中心にあるのは「自由死」という命の選択。「死ぬか生きるか」ではなく、「死ぬか死なないか」という重たいキーワードだ。現代社会で「自由死」が合法化されたら、私はそれを選ぶだろうか。どれくらいの人が「自由死の認可」を求めて手を挙げるだろうか。
 
最後に朔也は現実世界に軸足を置いて、新たな目標へ向かって歩き出す。
彼の強さがこの重たい物語に光を射している。
 

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