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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.181

蔦屋書店・江藤のオススメ 『もうあかんわ日記』 岸田奈美/ライツ社
 
 
どうしようもない、笑いというのは我慢が難しい。
笑っちゃいけないんだけど、笑うような状況じゃないんだけど
 
まず著者の岸田奈美さんのご家族のことを書いておきたい。
父親は他界している。母親はもともと車椅子ユーザーで、最近では生死をさまよう大手術をして入院した。弟はダウン症。祖母はもの忘れがひどい、どころじゃない事になってきて、どうもタイムスリップしているらしい。
ということになっています。端的に言ってとても大変な状況なのです。
 
しかし、岸田さんの日記を読むと、どうにも我慢ができない。
いや、理性では不謹慎だからダメだ、と思いつつも。
笑いがこらえられない。
それはもう、面白おかしい語り口で、完全にこちらを笑わせにきている。
 
岸田さんは非常に大変な日々、場合によってはとんでもない悲劇とも言える日々を面白おかしく人に語ることで、笑いに変えることで、つらさを空に昇華させている。
ひでーよね。笑っちゃうよね。げらげら。と。
 
そして、この日記は著者の岸田さんが自分自身を救うために祈りのように日々綴ったおもしろ話であるのだが、これを読んでいる私たちも救われてしまうのはなぜなのだろう。
 
私も、日々を面白おかしく過ごしたいと常に思っている人間なのですが、これはつらい!しんどいぞ!と思う時もあり、それはモヤモヤとした何かになり、胸の奥の方でぐずぐずとくすぶっている。ちょっと気を抜くとそのつらみは手前に顔を出してきて、私の気分を落としにかかってくる。
 
だけど、この本を読んでいると、そのぐずぐずとしたくすぶりがさらさらの砂のようになって、体の外にさらさらーっと出ていってしまったように感じた。
確かに私は救われた。なんなのだろうこの気持。
 
でも、少しわかる気がするところもある。
とんでもない悲劇は、渦中にいると全く周りも見えなくなって、ただただつらいし、出口なんてないように思える。
でも、そんな状況をはるかに高い空の上から眺めてみると、あれ?こんなに狭い中で悩んでいたのか?もしくは、これは見ようによってはめちゃくちゃおもしろい状況だぞ。
なんて思えたりもする。
 
某テレビ番組で、今をときめく売れっ子やすごく面白い大人気の芸人さんたちが、中学生の時イケてなかったというくくりで集まって、そのイケてなかった時の話をしているのを見たのだが、それはそれはめちゃくちゃ面白かった。
大笑いしているうちになんだか自分の過去のつらかったこともチャラになった気がした、そして今のつらいこともどうでもいいように感じた。
 
でも、その当時の彼らだって、きっとこの経験が将来には面白話になるなんて思っていなかったはずだ、つらく暗い青春に打ちひしがれていたに違いない。
 
今これを読んでいる人の中に若い人もいるかもしれなくて、今まさにつらい思いをしている人もきっといると思う。だけど、きっと大丈夫。若い頃にいじめられた経験があったり、とてもしんどい日々を送った経験があったりした人って、おとなになってからすごく魅力的になったり、すごく優しくて人に好かれるようになったりするんですよ。
そういう人達って、めちゃくちゃ伸びしろがあると言えるんですよね。
 
今はつらいかもしれない。でも今は無理かもしれないけど、いつか絶対笑いに変える事ができる。だからその時まで生きよう。と言いたい。
 
ただ、この本の著者の岸田さんはちょっとそこにスペシャルなところがあって、それはどういうことかと言うと、つらい日々をリアルタイムで面白話に変えているのである。
これは非常にまれな才能で、もう口を開けてぽかんと見ているしかない、いや、大笑いするしかない。
 
岸田さんは、あらゆる大変な日々をひとりで抱え込まず、人におもしろ話として語ることで、確実に自分も救われるし、ついでに読んでいる人も救うことができると、ここで証明してくれている。
これは非常に頼もしいことだ。
 
だからぼくだって
あなただって
 
いつか同じようにできるんじゃないかな
 
 
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