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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.374『がいこつさん』五味太郎  文化出版局



蔦屋書店・佐藤のオススメ広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.374『がいこつさん』五味太郎  文化出版局
 
デビューから50年になる絵本作家五味太郎さんのポッドキャスト「絵本の時間」は、これまで作ってこられたご自身の本についてのお話や、作品の向こう側にある考え方などをじっくりと聴くことができる番組です。五味さんの絵本は、ご存知ない方はいないのではないかと思われるくらいに広く浸透し独自の存在感を放っていますが、五味さんご自身もまた作品と同じく目の離せないような存在感と魅力をお持ちの方です。
 
今回ご紹介する『がいこつさん』は、「絵本の時間」の中で取り上げられていた、初期の作品のひとつです。お話を聞いて私は初めて読んでみて、その味わい深さに衝撃をうけました。
 
主人公がまさかの白抜き。がいこつなのに、どこかキュートな雰囲気さえ漂う立ち姿。
はじめのページに描かれた、がいこつさんが横になって眠っている寝台の枕元に置かれたロウソクは、彼が理科室の標本的ながいこつさんではなく、人が亡くなり火葬されて骨だけになったものとしてのがいこつさんであることを、暗示しているかのようです。
 
寝返りばかり打って、安眠(永眠?)できない様子のがいこつさん。ぐっすり眠ることができないのは、心に引っ掛かることがあるせいです。「何かを忘れているような気がする」がいこつさんは、自分が忘れているものとは一体何なのか、その正体を探し当てようと、部屋から外に出掛けていきます。
 
風にはためく洗濯物を見て、「忘れていたのは、せんたくだったかな」と立ち止まるがいこつさんに、どこからともなく「まさか、がいこつさんにかぎって、せんたくを忘れたということはないでしょう」という声が聞こえてきて、がいこつさんは「それも、そうだな」と思います。考えてみれば骨だけになった自分には、身に付けるものなど必要ありません。どんなことでもまずは自分自身の頭で考えるという、五味さんの一貫した姿勢をあらわす「それも、そうだな」ですが、この絵本で繰り返される「それも、そうだな」には、どれも納得のなかに静かな諦めのようなものが混じります。いつものカラッと明るい感じと違うのは、それがどうにもならない喪失感を伴っているから。街中をさまようがいこつさんは、様々な喪失を通過した存在として描かれます。
 
もうはるか過去のものになってしまった、日々の生活や、誰かへの思い。それらを失い、すべて捨てきって骨だけになったはず。だけど何か忘れていることがあるような気がする。ひっそりとした諦めの中にいながら微かに惑う、がいこつさんのあてどない彷徨に切なさを覚えます。
 
大人の方にとっては、ユーモアを湛えながら描かれる物悲しさのようなものが、自分のなかにある心情と重なって、癒されるということもあるのではないでしょうか。或いはまた、いつか終わりが近づく時のこと、自分はその時どうあるのだろうかということにも、思いが向かうかもしれません。
 
忘れていることを探し当てるまでのストーリーである体裁をとっていますが、忘れていることがあるかないかということよりも、そんなことは分からないけど、人生にはそういう気持ちが存在するよね、そこがまた魅力的だよねという、五味さんの奥深くも軽やかな投げかけであるようです。
ポッドキャストで耳に残った、低音のやわらかな声が甦ってくるようで、なるほどそれはそうかもしれませんねと、心の中でつぶやき返してしまうのでした。
 

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