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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.376『錦繍』宮本輝 新潮文庫

蔦屋書店・神崎のオススメ広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.376『錦繍』宮本輝  新潮文庫
 
 
心が疲れていた。
こんな時は寄り添ってくれる物語を探す。寂しくて悲しくて切なくて、そして温かく優しい物語。手に取ったのは『錦繍』。

ある事件をきっかけに離婚をした女と男が十年ぶりに偶然出会った。女は男へ手紙を書き、男は返事をする。二人の手紙のやりとりだけで綴られる。手紙という媒体が十年という二人の空白と思いを埋めていく。
亜紀が靖明と離婚したのは、靖明の不倫が原因だった。不倫相手の無理心中に巻き込まれ、相手は死に、靖明はかろうじて生き残った。離婚から十年、二人は会うことも、お互いを気にすることもなかった。偶然「蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で」再会するまでは。
亜紀は再婚し、障害のある子どもを連れての旅の途中だった。目の前にいる靖明はすっかり変わり、とても普通の暮らしをしているとは思えないような姿だった。
 
この出会いから手紙のやり取りが始まる。事件のこと、不倫相手の女性のこと、離婚後の生活のこと。最初は拒んでいた靖明だったが、「私には知る権利がある」という亜紀の思いに応えていく。二人の手紙は、十年前に面と向かっては決して聞くことも、話すことも、伝えることもできなかった思いが、堰を切って溢れ出したように綴られる。
 
手紙によって中途半端なまま抱えていた過去を清算した二人は、未来へと歩き始める。モーツァルトを聴いて「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれへん。」と感じた亜紀は、再婚した夫と離婚して子どものために生きようと決め、靖明も一緒に暮らしている女性と新しい仕事をスタートした。二人とも力強く「生きる」方向へシフトしていく。
 
『錦繍』は一般的な恋愛の「好き」「嫌い」を超えたところで描かれる恋愛小説だ。読み終えた後、穏やかさに包まれたようだった。この余韻をぜひ感じてほしい。
 

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