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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.232『塞王の楯』今村翔吾/集英社

蔦屋書店・江藤のオススメ『塞王の楯』今村翔吾/集英社
 
 
直木賞を受賞した作品なので、そのクオリティは保証されているし、絶対に読んで損は無い本なのだが、私は今ここであえてもう一度お勧めしたい。
 
面白い本を読みたいと思うなら。
万難を排してまずこの本を読んだほうがいいですよ!と。
 
なぜ今なのかというところにも答えたいと思います。
私たちは今、戦争について、いまだかつてなく敏感になっていると思われるからです。
ここについては、また本の内容を紹介する時に触れたいと思います。
 
今回紹介する本は、今年1月に166回直木賞を受賞した今村翔吾さんの『塞王の楯』です。
まずは物語の舞台ですが、豊臣秀吉が天下を獲ってから関ケ原の戦いが起こるところまでの、戦国時代のなかでも末期の頃になります。
主人公は、石垣積みの若き天才です。石垣積みを極めたものが塞王と呼ばれるのですが、この主人公は塞王の跡継ぎとなるほどの才能を持った若者なのです。
彼の名は匡介(きょうすけ)と言います。
 
ここで、タイトルになっている「塞王」と「楯」についても説明をさせてもらいます。
 
幼くして亡くなった子どもは賽の河原で石を積むと言われています。その石をいくら積もうが、やってきた鬼に崩されてしまう。結果子どもたちは永遠に石を積まなければならない。しかし、そこに現れる地蔵菩薩は鬼を懲らしめる存在です。地蔵菩薩はまたの名を塞の神とも呼ばれます。それが転じて、石を積む職人の頂点を極めたものを塞王と呼ぶのです。
 
そして「楯」。戦国時代において楯とは何かというと、お城の石垣なのです。
お城を守ってくれる「楯=石垣」の出来不出来によってその城の防御力がまったく変わるぐらいに重要な要素なのです。
この最強の楯を作る集団は穴太衆(あのうしゅう)と呼ばれる職能集団でその長が塞王なのです。
 
さて、ここで「楯」の話が出てきたので、もう一つのキーワードも紹介しておきます。
それが「矛」です。戦国時代における矛とは鉄砲を指します。
この鉄砲を作る職能集団もいて、国友衆といいます。この集団の中にも若き天才が現れます。
彼の名は彦九郎(げんくろう)と言います。
 
「矛盾」という言葉があるように、最強の矛と最強の楯は同時に並び立つことはできないものです。そのふたつが戦った時、何が起こるのか。
 
この小説には読みどころが非常に多く、どこを取っても面白いのですが、この若き天才の戦いというのは物語の重要なポイントで、ものすごく熱く凄まじい戦いとなります。
読んでいて最高に面白いポイントのひとつです。
 
それと同時に、このふたりを含む登場人物たちですが、ものすごく魅力的な人物ばかりなのです。戦いを描いているので、敵と味方となってしまうのですが、どちらの陣営にいる人達も全て魅力的な人物ばかりなので、どちらの陣にも思い入れを持ってしまいます。
 
中でも特にものすごい魅力を振りまく人物としては、京極高次という武将がいます。
彼は、常に女性の縁者に助けられてきたという所で、戦はものすごく下手だけど、親の七光りと同じような意味でお尻についた光で出世している蛍大名というあだ名で、ちょっと蔑まれている印象でした。
ですが、なのです。これ以上は読んで知っていただきたい。
 
そして主人公からすると敵側になるのですが、ものすごく戦いに優れた武将の立花宗茂がいます。京極高次とは全く正反対の人物ですが、これがまたかっこいい!単純に強い!勇ましい!本当はいい人!なので、こちらも実際に読んで、好きになってください。
 
そしてこの小説をもう一段深いものにしている要素のひとつとして、その合戦の描き方です。
戦国時代の合戦というのは、ともすれば荒唐無稽でど派手で、ちょっとファンタジーのような描き方をされがちなのですが、この小説で描かれる合戦では、まさに戦争が描かれているのです。
もちろんこの小説はエンターテイメント小説なので、石垣積みの穴太衆があっと驚く奇策で敵を防いだり打ち負かしたりというど派手な演出もあるのですが、物語ラストの最終決戦では、読んでいるこちらも息が詰まってしまうようなギリギリの戦いが描かれます。
 
この最終決戦では若き二人の天才が直接対決をします。
守るための「楯」を作る匡介と殺すための「矛」を作る彦九郎。
ふたりは相容れぬように感じますが、実は目指しているところは同じ、戦のない世の中なのです。
最強の石垣を作って、絶対に落ちない城になれば、やっても無駄なので戦なんて無くなると考える匡介と、最強の鉄砲を作って、それを誰でも使えるようになれば、強さに差がなくなって、そうなれば誰も戦なんてやらなくなるだろうと考える彦九郎。
目指すところは同じなのですが、その手段もアプローチの方法も全く正反対なので、どうしてもふたりは戦わざるをえない。その戦いは壮絶なものとなってしまいます。
 
この小説が凄いのは、ただただ痛快な戦国時代の合戦を描くだけではなく、もっとシビアに戦争を描いているというところです。
戦争状態で人々はどうなるのか、戦っている当事者たちは何を思っているのか、民衆は何を考えどんな動きをするのか、極限状態で人は何を思うのか。
 
凄まじい戦いの果に一体なにが残るのか。
読み終わったあなたは何を感じるのでしょう。
 
ただひとつ言えることは、
この本を読むことは、あなたにとって最高の読書体験になるということ。
絶対に後悔はさせません
ぜひ読んで熱い想いを感じてください。

 
 
 
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