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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.233『愛してやまないカフェロッタのことと、わたしのこと』桜井かおり/旭屋出版

蔦屋書店・竺原のオススメ『愛してやまないカフェロッタのことと、わたしのこと』桜井かおり/旭屋出版
 
 
東京都・世田谷区。
三軒茶屋駅と下高井戸駅を結ぶ電車に世田谷線というのがある。
これは用語的には“軌道線”というものに分類される電車らしいのだが、走る姿はなんとなく可愛らしいし、駅の趣も昔ながらの情緒が残っていて愛らしい。
 
そんな世田谷線の中の一駅に“松陰神社前駅”がある。
駅名の“松陰”はあの吉田松陰の事であり、安政の大獄により江戸で処刑された松陰を、弟子達が長州藩の下屋敷のあったこの地に埋葬したという由縁があるとの事だ。
私もむかしこの近くに住んでいた事があるのでその雰囲気は今でも覚えているが、ゆったりと時間が流れている様な感じがする、落ち着いた、素敵な土地である。
 
松陰神社前駅は住所で言うと“若林”という地名になるが、この地には“松陰神社通り商店街”という場所がある。
皆さんの住む所のお近くにもあるであろう、いわゆる駅前商店街である。
 
その中に、かつて“伝説的”とまで呼ばれるほど愛されたカフェがあった。
それがタイトルにある「カフェロッタ(café Lotta)」である。
2001年3月にオープンして以来営業を続けて来られたものの、建物の取り壊しの為2021年9月末をもって閉店してしまった、(形としては)今はなき名店である。
 
本作はそのオーナーであった桜井かおりさんが、カフェロッタの閉店後に、これまでの歩みを振り返る形式で記されており
Chapitre1「愛してやまない“カフェロッタ”のこと」
Chapitre 2「大好きなパリのこと」
Chapitre 3「今・これからの“わたし”のこと」
全体としてはこの様な構成で成り立っている。
カフェロッタについての思い出、特にお店の取り壊しが決まる=閉店する事が決定してから最終営業日まで、そして最終営業日を終えてからのバタバタについての詳しいエピソードがふんだんに描かれているが、桜井さんが大好きなパリでの事(カフェロッタの調度品もパリから持ち帰ったものが多かったそうだ)や、お店の経営を離れた、これからの桜井さんの生き方についてもページが割かれているので、Chapitre1の途中では切ない感慨が生まれる項もあるが、最終的にはとてもポジティブで、前向きな気持ちと共に読み終える事が出来る。
 
本作を読み進めて、その文章から桜井さんについて「力強さ」と「優しさ」という言葉を思った。
 
先に“カフェロッタは伝説的とまで呼ばれていた”と書いたが、その意味で「こんな素敵な気持ちを持った人なのだったら、その人がやっているお店もさぞかし素敵で愛されていたのだろうな」と、大いに合点がいった。
20年続く店というのは、決して偶然で続くのではない。
そこには必ず理由があり、その理由の大きな軸として、この“桜井かおり”という人間の気持ちや心の部分があった事は確かだろう。
 
あのカフェロッタは、今はもうない。
けれども、その記憶は残り続けるし、桜井さんもまたこれまでとは違った活動(この本の様な文筆業など)でご活躍中だ。
その事を喜び、これからの氏の歩みを楽しみにしたいと思う。

 
 
 
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