広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.283『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/新潮社
蔦屋書店・江藤のオススメ『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/新潮社
私は、好きな本は?と聞かれると「変な本です」と言うぐらい、まともな本好きではないのですが、実は王道の青春小説が好きだったりもします。キラキラした青春小説を読むのがたまらなく好きなのです。
じゃあお前は、キラキラした青春を送っていたのか。と言われると全くそんなことはなく、高校時代はあまりにも何も無かったからか、ほとんど記憶が無く。大学時代は車を手に入れてからというもの、ひとりでずっと古本屋さんを巡るというジトッとした青春を送っていました。
この本は、主人公である成瀬の中学生から高校生の時のお話です。
成瀬という女の子は、本当に愛すべきおもしろ人間なのです。しかも自分が面白いことをしているという自覚はあまりなく、彼女の中では淡々と日々を過ごしているはずなのに面白いという、おもしろというものをその生き方で体現しているような少女です。
成瀬という女の子は、本当に愛すべきおもしろ人間なのです。しかも自分が面白いことをしているという自覚はあまりなく、彼女の中では淡々と日々を過ごしているはずなのに面白いという、おもしろというものをその生き方で体現しているような少女です。
例えば、ある日、成瀬は友人の島崎という女の子に「私はシャボン玉を極めてみようと思うんだ」と言ったかと思うと、その数日後には、地元のローカルテレビ番組「ぐるりんワイド」に天才シャボン玉少女として出演したりします。
このエピソードを見てもわかるように、成瀬はとても器用で頭もいいのです。
なので、普通にしていればそれなりに文武両道な優等生なのですが、そんなところにとどまっている成瀬ではありません。
このエピソードを見てもわかるように、成瀬はとても器用で頭もいいのです。
なので、普通にしていればそれなりに文武両道な優等生なのですが、そんなところにとどまっている成瀬ではありません。
もっとも成瀬のパーソナリティを印象つけるようなエピソードが連作短編の1話目なのですが、成瀬はこんなことをいい始めます「島崎、私はこの夏を西武に捧げようと思う。」。
一体何のことだかわからないですよね。
成瀬が住んでいる地元の西武大津店が閉店することになったのです。そのため8月31日の閉店に向けて1ヶ月間毎日、ローカル局の番組「ぐるりんワイド」で西武大津店からの生中継があると聞きつけた成瀬は決心します。毎日その中継に映り込もうと。
一体何のことだかわからないですよね。
成瀬が住んでいる地元の西武大津店が閉店することになったのです。そのため8月31日の閉店に向けて1ヶ月間毎日、ローカル局の番組「ぐるりんワイド」で西武大津店からの生中継があると聞きつけた成瀬は決心します。毎日その中継に映り込もうと。
そして実際に成瀬は、島崎にテレビ中継をチェックしてもらいながら、毎日西武に西武ライオンズのユニホームを着て通って、中継に映り込みます。
1日も欠かさず通うという目標に向けて、ほんのすこしだけトラブルめいたことも起こるのですが、基本的には成瀬の日常には、驚くような事件やドラマチックな展開は起きません。だってちょっと変わってはいますが、普通の女の子の日常ですから。
でも、成瀬を観察しているだけで本当に面白いのです。
1日も欠かさず通うという目標に向けて、ほんのすこしだけトラブルめいたことも起こるのですが、基本的には成瀬の日常には、驚くような事件やドラマチックな展開は起きません。だってちょっと変わってはいますが、普通の女の子の日常ですから。
でも、成瀬を観察しているだけで本当に面白いのです。
他のエピソードでは、成瀬がたった3週間の準備期間で島崎とコンビを組んでM1の予選に出場してみたり、高校生になった成瀬は、初日に頭を剃って登校したり(その理由があまりにもくだらなすぎて笑いを通り越して呆れます)
でも、そんな周りのことには我関せずで、自由気ままに振る舞っているような成瀬ですが、幼い頃からの友人である島崎が引っ越してしまうという話を聞いてから、彼女の日常がちょっとぐらついてきます。島崎は、成瀬に振り回されていたように思えるのですが、実は、成瀬の支えとなっていたのが島崎だったのかもしれません。島崎が不在になるということで、成瀬が急に人間らしさを垣間見せてくるところが、実はこの本で一番ドラマチックなところなのではないでしょうか。それによって、ますます成瀬のことが好きになってしまいました。
いいなぁ、こんな友情を私は育んできたのかなぁ。いや、今私に友人と呼べる人がほとんどいないという現状を考えると、育んでいなかったと言わざるを得ない。
私の青春小説好きは、失われた私の青春時代を必死で取り戻す(架空の青春で)作業だったのかもしれません。
自分と重ね合わせて、自分にはそんなキラキラした青春は無かったので、青春小説は苦手なんです、という読まず嫌いの人はきっと大勢いるはず。でも、そういった人こそ、青春小説を読むべきなのです。
私の青春小説好きは、失われた私の青春時代を必死で取り戻す(架空の青春で)作業だったのかもしれません。
自分と重ね合わせて、自分にはそんなキラキラした青春は無かったので、青春小説は苦手なんです、という読まず嫌いの人はきっと大勢いるはず。でも、そういった人こそ、青春小説を読むべきなのです。
さあ、私と一緒に、無かった美しい青春をいまさら妄想で埋めてみる、という不毛な作業をしてみませんか。
いや、ごめんなさい、そんな変な動機じゃなくても成瀬は最高なので、どなたにでもおすすめいたします。