include file not found:TS_style_custom.html

広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.285『へんなの』国崎☆和也 /太田出版 『激ヤバ』伊藤幸司/KADOKAWA

蔦屋書店・犬丸のオススメ『へんなの』国崎☆和也 /太田出版 『激ヤバ』伊藤幸司/KADOKAWA
 
 
ランジャタイという漫才師を知っていますか?
彼らの独特の世界観に好き嫌いがかなり分かれると思うのですが、わたしは、どっぷりとはまり中です。今回は、そのランジャタイの二人それぞれの初エッセイを紹介します。
 
ランジャタイを一躍有名にしたのは、2021年のM-1グランプリでしょう。その少し前から知っていたので、ファイナリストとして出場が決まったときには、とても嬉しかったですし、めちゃくちゃ応援していました。結果は、と、いえば……ぶっちぎりの最下位。ですが、ぶっちぎりでおもしろかった。一本目のネタの中では、彼らこそ優勝でした。これは、あくまで個人的な見解ですが。
その時のネタはこんな感じ。一歩も外へ出れないくらい、ものすごく強い風の日。そんな日に外に出てしまうと、ピューーーッと飛ばされてきた何かが、ビターンと顔いっぱいに張り付く。張り付いて顔面でワサワサしているのは、猫。この猫をあなたは飼いますか?と、いうところから始まるのですが、すでにありえないシチュエーション。しかも、その猫はちょっとした隙に耳から入り、頭の中のコックピットからその人を操ってしまう。猫を出したい人と、出たくない猫。猫は更に頭からお腹のほうに向かってエレベーターに乗り降りて行ってしまって…。この次から次へとありえないことだらけのシチュエーションを、マイムで全力で演じるボケの国ちゃん(国崎☆和也さん)と、その世界観を否定せず心配そうなツッコみを入れる伊藤ちゃん(伊藤幸司さん)。猫に入られた人と、入ってしまった猫を演じ分ける国ちゃんは、もうドタバタで、耳から出た猫のしっぽを真剣に引っ張り、しっぽを引っ張られたねこは必死で頭の中へ逃げ込もうとするマイムも妙におかしい。そんな国ちゃんに伊藤ちゃんは「にゃんちゃん、出ておいで」と、その世界観をアシストするようなツッコみを入れるのです。彼らのネタをイリュージョン漫才と誰かが称していましたが、まさにその通り。それ以上に現実からの逸脱と物質の質量を無視した展開は、これこそSF漫才と言ってもいいのではないでしょうか。
 
そんな二人がエッセイ集をだす。どのようなことばで語るのか、なにを語るのか、興味しかありません。この二冊はカバー表紙からもう最高で、国ちゃんの『へんなの』は、衣装で着ているガッチャマンのジャージの黄色と、どこまでもふざける彼のイメージピッタリのとぼけたキャラクターのイラスト。伊藤ちゃんは、衣装の黒と、芸人仲間からランジャタイの真のヤバい方と言われる謎のイメージ通り、タイトルの『激ヤバ』がシルバーに光っている。立ち位置に並べると、ランジャタイそのものです。
エッセイはというと、それぞれにちょっぴりカッコ悪くて、懐かしくて、寂しかったり哀しかったりするけど、笑えて、ジワッとする。幼いころの友達、暗くなるまで遊んだあのころ、好きな漫画、TV番組、二人の出会い、売れない地下芸人時代とその仲間、なぞのバイト、おじいちゃん、お母さん、M-1。エッセイの締めにやっぱりふざける国ちゃんと、多くを語らない印象とは逆に小説のように滑らかな文章の伊藤ちゃん。伊藤ちゃんから見える国ちゃんは、いつもふざけて笑っている国ちゃんとはちょっと違う一面もあり驚きます。もう解散してしたまった浜口浜村という漫才師のことを二人とも書いていて、浜口浜村のことが二人ともこんなに大好きで解散することが寂しくて。浜口浜村の解散ライブの日も、いつも通り笑いながら全力でふざけている国ちゃんと、何考えているかわからない伊藤ちゃんであったとしても、心の中は熱くていろんな感情がグルグルと渦巻いていたんだなぁ。
二人の程よい距離感と、お互いがお互いを相方として選んで、ふざける国ちゃんと泣いちゃう伊藤ちゃんが、どんな場面でも「生きている」と思えるのです。この二冊は、片方でももちろんおもしろいのですが、合わせて読むことで2乗のおもしろさです。2×2です。
 
ランジャタイのネタにはM-1の「風猫」以外でも、とてもおもしろいものがたくさんあります。「バーベル」「サザエさん」「弓矢」「iPhoneのつくりかた」など、どれも彼らにしかできない、唯一無二の世界観を持ったネタです。そのネタは、全く突拍子の無いように見えて、でも、今まで経験してきた人生が大いに盛り込まれた、彼らそのものなのだ、と、改めてわかるのです。それを言った芸人さんが誰だったのか記憶が曖昧なのですが、彼らについて「国ちゃんは、放課後の中学生が教室の後ろのロッカーの前でずっとふざけている感じ。伊藤ちゃんは、唯一の友達がふざけているのにつかまって、帰りたいけど帰れない感じ」なのだと。これはわたしの中でも、妙にしっくりきてしまいました。この二冊のなかの、幼いころ全力で遊んでいた心そのままに、これからも二人で全力で超しつこくふざけていってもらいたい。
 
最後に伊藤ちゃんの『激ヤバ』のあとがきから引用します。
 
 
今書いているこれも本に載るだなんて、本当に嬉しいです。
みんなに読んでほしい!
特に、もう人生どうしようもないとか、なんにも楽しくないとか思っている人に、ふふふと笑ってほしい。幸せいっぱいの人にも、馬鹿だなあ、どうしようもないなあと楽しく読んでほしい。
あなたの家の枕元に置いてほしいのです。
会わなくても、話さなくても、視線を交わさなくても、遠くにいても、コミュニケーションを取らなくても、今を一緒に生きているあなたとお友達になりたいです!
この本を通じて僕と心の中でお友達になりましょう!
 
 
時と空間を超えて、馬の合う友人と出会えるなら、やはり読書はやめられないと思うのです。
 
 
 

SHARE

一覧に戻る