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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.188

蔦屋書店・江藤のオススメ『レオノーラの卵 日高トモキチ小説集』日高トモキチ/光文社
 
 
「レオノーラの生んだ卵が男か女か賭けないか、と言い出したのは工場長の甥だった。」
書き出しとしては最高ですよね。
 
まず、レオノーラってなんなんだ? そして生むのが卵? 
オスかメスではなく男か女? そしてそれを賭けの対象にする?
 
?がいっぱい並ぶ、とても秀逸な書き出しから始まるこの小説集、面白くないはずがないと、ここを読んだだけで私は確信してしまいました。
 
ではまず、この本について何から説明しましょうか。
例えば作者の日高トモキチという人は何者なのか。
 
日高トモキチさんは実は凄く多彩な創作活動をされている方です。
突然現れた若手のちょっと変わった小説家だと思いきや、実はクリエイターとしてはキャリアもあるベテランなのです。
 
日高トモキチさんは現在56歳、肩書としては漫画家でありイラストレーターでもあり、そして小説家でもあります。
1988年にゲームブック『機動戦士ガンダム シャアの帰還』でライターデビューをされました。その後はファミコンソフトの企画に参加されたり『パラダイス・ロスト』という麻雀漫画で漫画家デビューされたり、SF小説を書いたり、などなど、何処が本業なのかとわからなくなってしまうほどの多才ぶりです。
その日高さんが満を持して出された初めての単独の小説集が今回紹介する本となります。
 
では、次にこの本がどんな本なのか。
『レオノーラの卵 日高トモキチ小説集』というだけあって、これは小説集です。
では、収録されているタイトルを書き連ねてみましょうか。
 
「レオノーラの卵」「旅人と砂の船が寄る波止場」「ガヴィアル博士の喪失」「コヒヤマカオルコの判決」「回転の作用機序」「ドナテルロ後夜祭」「ゲントウキ」
どんな話なのか想像もつきません。
 
実際、私はこの本をちょっと前に読んだのですが、今このようにタイトルを眺めても、それがどんな話だったのかまったく思い出せません。
記憶からすっぽりと抜け落ちているのがある意味怖いのですが、読んでいる間はめちゃくちゃ楽しかったという記憶だけは残っています。
ただ、このお話を読んでも、なにも得るところがなかったので、記憶として定着することはなく全て失われてしまったのだろうなとぼんやり思っています。
 
続いて表題作についてちょっと説明してみたいと思います。
?がいっぱいだった書き出しから解説してみましょう。
 
「レオノーラ」とは工場長の甥の叔父が工場長を務めていた工場で働く若い娘です。
ちょっと言い回しがすでにわかりにくいですが、始終こんな調子なので慣れるしかないです。
そのレオノーラが生んだ卵が孵ったら、男の赤ちゃんが出てくるのか、女の赤ちゃんが出てくるのかを3人のろくでなし達が賭けようとします。
1人は「やまね」です。やまねというのは山の方に住んでいる鼠の仲間、もうひとりは「時計屋」時計屋は首から下が無く、空中に首だけ浮かんでいます、そして最後の1人は「チェロ弾き」です。
実は、25年前にも同じような状況で4人のろくでなしが男か女か賭けていたのだが、、、
 
というお話。
どうでしょうか、意味がわかりませんね。
説明した私も、説明しようとしたことを後悔しています。
 
徹頭徹尾そんな感じの大嘘というかほら話が語られるのですが、これが意外や意外、めっぽう面白い。
さらには、HIP HOPシーンにおけるサンプリング・カルチャーとも言うべき手法を使って、さまざまな周辺カルチャーからいろいろな要素を取り込んでお話の中に混ぜ込んでいるので、その元ネタがわかるとより楽しいという、マニア心をくすぐるような作り方をしているというところも凄く面白い。
 
例えば、レオノーラの母親の名前はエレンディラといいます。
エレンディラはいつの間にかこの街に住み着いてきた流れ者の娼婦です。
 
ここで、幻想的な小説といえば、ラテンアメリカ文学ですね。
その代表的な作者といえばガルシア・マルケスですが、彼の書いた中編小説に「エレンディラ」というタイトルのものがあります。
その小説の主人公のエレンディラは因業な祖母に奴隷のようにこき使われ、やがて旅の娼婦に仕立て上げられるのですが、おそらくは、この本に出てくるエレンディラの元ネタはここでしょう。
 
例えば他の短編ではこんな会話が出てきます。
「アンデルセンの人魚姫の顔が魚介類だったら、それは単なるインスマスの住人だ」

「ごめんなさい、その住所知らないです」
このやり取りも分かる人にはニヤリとするところですね。
 
他にも、お腹の中からチクタクと時計の音がするワニがでてきたり、河童の子どもにクラバックという名前を付けてみたり、案山子の名前が山田だったり。
 
そうそうもうひとつ、これは全く違うかもしれないのだけど「ゲントウキ」というお話の中でオーケストラが奏でる音楽に
「ルッタリラッ、ルッタッタ、ルララララッ、タッタッ。」
というのがあるのですが、これは『ぼくは王さま』のオマージュじゃないのかな、、、
 
といった感じでネタは付きないのがこの小説集です。
もちろん私には解らないネタもたくさんあることでしょう。
ただのほら話に見せかけて、実はわたしたちの教養を試される本なのかもしれません。
 
でも、ご安心ください。
基本的にくだらないので。元ネタなんてわからなくても大丈夫。
何も教訓めいたこともありませんし、読み終わってすぐに全部忘れても問題ないし、意味なんて追求するだけ無駄だし。
 
でも、でもですよ、読んでいて本当に楽しいのです。
これこそが、物語を読むという根源的な喜びなのではないのでしょうか。
 

くだらない本について嬉々として熱く紹介するのもまたくだらないけど
いや、こういうのが一番楽しいんですよね~
 
 
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