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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.237『ただ、そこにいる人たち』小松理虔/現代書館

蔦屋書店・野津のオススメ『ただ、そこにいる人たち』小松理虔/現代書館
 
 
静岡県浜松市にある、NPO法人クリエイティブサポートセンターレッツが運営する「たけし文化センター」。
障害のある人たちが「いたいようにいる」場でありながら、地域に開かれた「文化発信拠点」として全国から注目を集めています。
このユニークな施設を1年かけて「観光」したのは、福島県いわき市在住のローカルアクティビスト・小松理虔さん。専門家でも支援者でもなく、あくまでヨソモノとして障害のある人と「たた、そこにいる」ことで、障害福祉の「部外者」から「友だち」に変わっていく様子が記録された本です。
 
というと、ちょっと難しそうに感じるかもしれませんが、とにかく利用者もスタッフの皆さんも、そして著者の小松さんもみんなユニークで魅了的な方ばかり。コーラを飲んでゲップしあったり、利用者さんとスタッフが一緒になって水遊びしたり、散歩に出掛けてちょっと困ったことになったり。もちろん大変なこともたくさんあるはずなんですが、とにかく毎日楽しそうです。
障害のある人も、それを支える支援者も、みんなが安心して「いたいようにいる」ことができるこの施設から学べることがたくさんあるはずです。
    
私はこの本を読みながらこんなことを思い出しました。
 
小学生の低学年の頃、私の一番の親友はYちゃんでした。(私の母がPTAのバレーボールの練習があるため)土曜日の夜ご飯はYちゃんの家でご馳走になるのが決まりだったし、平日の放課後もYちゃんと公園やお家で遊んだし、日曜日にはYちゃんのご家族と一緒に出かけたりしたし、とにかくしょっちゅう遊んでいました。本当に仲良しでした。
Yちゃんとは小学1年と2年の時同じクラスでした。でもYちゃんは時々しか一緒に授業を受けることはなく、特別学級で過ごすことの方が多かったと記憶しています。
Yちゃんは知的障害者です。でも、小学生の頃の私には友だちでしかなかったし、特に障害について意識せず、ただただ楽しくいつも一緒にいました。
小学3年生になる春に、私は父の仕事の関係で転校しました。それからはYちゃんと会うこともなく、年賀状でのやり取りしかありませんでした。
私が高校生になったある時、YちゃんとYちゃんのお母さんが会いに来てくれることになりました。久しぶりにYちゃんに会える嬉しさとともに、不安な感情が押し寄せてきました。どうやって接したらいいのだろう・・・。
その日は、Yちゃん、Yちゃんのお母さん、私の母、そして私の4人でショッピングモールに出かけました。Yちゃんが何を言っているのか理解できない、静かな場所で大きな声を出して恥ずかしい、そんなことを感じながら時間がすぎ、夕方Yちゃんたちが帰る時間になりました。別れ際、Yちゃんが私にプレゼントを渡してくれました。その日に雑貨屋さんで買ってくれた小物入れでした。
家に帰り、その小物入れを見ながら涙が止まりませんでした。なんで小学生の頃のように普通に接することができなかったのか。自分が障害を意識しすぎて、冷たい人間になってしまったような気がして、自分を責めました。
あの時、久しぶりに会えた嬉しさをちゃんと伝えたかった。Yちゃんがただ、そこにいてくれるだけで、私も一緒にいるだけで、それだけでよかったのに。
 
Yちゃんどうしているかなあ。会いたいな。この本を読んだ今ならきっと楽しく過ごせる。
そう思います。

最後に認定NPO法人クリエイティブサポートレッツの掲げるコンセプト「表現未満、」をご紹介します。
 
「表現未満、」とは、誰もがもっている自分を表す方法や本人が大切にしていることを、とるに足らないことと一方的に判断しないで、この行為こそが文化創造の軸であるという考え方です。
そして、「その人」の存在を丸ごと認めていくことでもあります。良い、悪いといった単純な二項対立ではなく、お互いがお互いのことを尊重しながら、新しい価値観が生まれ、ともに生きる社会を皆で考えていく。
それが「表現未満、」プロジェクトの願いです。
 
いざ「表現未満、」の旅へ。

 
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