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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.288『バルト三国のキッチンから』佐々木敬子 /産業編集センター

蔦屋書店・古河のオススメ『バルト三国のキッチンから』佐々木敬子/産業編集センター
 
 
バルト三国。
そこは、中世の薫りを色濃く残し、どんな時代でも穏やかに、時に激しく風が吹き続けてきた三つの国。バルト海の東岸に南北に並ぶエストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国には、清らかな湖、古城や教会、世界遺産の旧市街や宮殿などが点在しています。
 
バルト三国の由来となった、「バルトの道」の歴史は、1917年ロシア革命まで遡ります。1939年独ソ不可侵条約秘密議定書によりソビエト連邦に併合。50年の時を経て、議定書の違法性に抗議した三か国の民衆は、1989年、独立を求め人々が手を握り、人間の鎖「バルトの道」を作りました。エストニア・ラトビア・リトアニア約675kmを、200万人が抗議活動し、世界に訴えます。1990年リトアニア、1991年エストニア、そしてラトビアが独立回復宣言。
ほぼ同時期の独立で「バルト三国」と称されるようになりました。

今回ご紹介する『バルト三国のキッチンから』の著者、佐々木敬子さんは、エストニア外務省公認市民外交官であり、旅と食、エストニア料理教室も行う多彩なエッセイストです。この度、2022年に訪れたバルト三国の、食と旅を綴った一冊が刊行されました。旅に出た季節は、昨年の今頃。リトアニア→ラトビア→エストニアと北上していく旅です。
 
リトアニアでは、地元のスーパーに立ち寄り、野菜や果物、魚介類など彩り豊かな食材と出会います。リトアニア料理を教わり、現地の物価高騰の現実も知ることとなります。また、年に一度のお祭り、夏至祭。人々が心待ちにするイベントで、冬が長く、日照時間が短いリトアニア人にとって、日照時間が最も長い夏至の日は、特別大事に過ごすのだそうです。佐々木さんも時を共にし、花冠を頭に飾り、伝統音楽を歌う、焚火を囲んで輪になって踊る、長い長い一日は日の出とともに終わりを告げます。

そして隣のラトビアへ。
お料理に使う食器、ラトガレ陶器の歴史博物館で歴史を紐解きます。ソビエト時代の人々は、何かを生産し生活しなければなりませんでした。土地、水、粘土、木材を使い陶器製作を完成させます。現在も、重鎮である職人の心意気が脈々と受け継がれ、作品が製作されているそうです。また、リガ中央駅から古い車両旅に出ます。日本ではキャッシュレスや自動改札など、人と話す場面が少ないけれど、車内での乗客同士、乗客と車掌の会話を聞き、懐かしささえ覚えます。
 
佐々木さんは更に北上し、エストニアへ。文化発祥の地、タルトゥ。また、サムターレ博物館では、著名な作家アントン・ハンセン・サムターレの長編小説「真実と正義」が紹介されます。自然と共存していく過酷な生活、隣人との人間関係から生まれる人の強さや、意志。人間の根本的な課題がテーマとなり、学校教材としても活用されているそうです。

三か国を約75日かけて旅した佐々木さんは、三か国それぞれの個性、思想、文化の違いを伝えるとともに、人々の生活や現実、食を通し、観光ガイド本とは違う角度で、本来の国の姿を見てほしいと願っています。
佐々木さんの道程を、地図に書きながら読み進めていくと、彩り豊かなバルト三国を訪れた気分に、そして、現地へ行きたくなる自分がいます。
 
 
 

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