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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.192 『出禁の男 テリー伊藤伝』本橋 信宏/イースト・プレス

蔦屋書店・江藤のオススメ『出禁の男 テリー伊藤伝』本橋 信宏/イースト・プレス
 
 
私が一番テレビを見ていた小学生の頃に始まったのが「天才!たけしの元気が出るテレビ」でした。
当時は、パソコンも普及しておらずインターネットも無くもちろんSNSなどなかった時代、学校での話題と言ったら、昨日見たテレビの話が中心でした。
「ダンス甲子園」「河童伝説」「大仏魂」「パンチパーマの相沢会長」「早朝バズーカ」などなど、今思い出しても笑ってしまう強烈な企画やキャラクターだらけで、これを見ていないと学校での話についていけないので、必死になって見ていたのを覚えています。
 
そして、もう少し成長して土曜日の夜の番組も見られるようになってから見ていたのは「ねるとん紅鯨団」。番組に応募した素人の男女が数十名集まって、フリータイムなどを使ってアタックし、最後の告白タイムでカップルが成立したり、振られたりする恋愛バラエティです。司会はとんねるずで、出演者の兄貴分のような振る舞いが視聴者にもささって、大ヒットした番組でした。
 
その後、高校生になった私は「浅草橋ヤング洋品店」を見て、「中華大戦争」や宮地社長の「ロールスロイス対決」や「江頭グランブルー」を見て大笑いしていたのです。
 
考えてみると、私は小学生の頃から大学生になるまで、ずっと「テリー伊藤」の作る番組に夢中になり、笑わされていた事になるのです。
 
ある朝、新刊の箱開けをしていて見つけたこの本。
『出禁の男 テリー伊藤伝』
読まないわけにはいかないよな。
 
著者は、本橋信宏。
今をときめく『全裸監督』の著者でもあります。
たぐいまれなる異能の男「村西とおる」の人生を描ききったこの作品はNetflixでドラマ化もされ、全世界で大好評となっています。
この村西とおるを描いた『全裸監督』の後にも『新・AV時代 全裸監督後の世界』という著作もあり、その中ではAVメーカーSODの元社長であり、元マネーの虎「高橋がなり」についても書かれている。
その中でも詳しく書いてあるのだが、高橋がなり(本名は高橋雅也)はもともとテリー伊藤のもとでADをしていたのです。さらにその後は、借金を抱え「浅草橋ヤング洋品店」で人気ものになった金萬福のお店で、テリー伊藤の指示のもと支配人をしていたこともあったのです。
そしてさらにその後は、テリー伊藤がビデオ安売り王のオリジナルビデオ作品を作るために、また映像制作のプロデューサーとして呼び戻したり、ビデオ安売王が倒産して、SODを創業したり、そちらもそちらで非常に面白いのですが、またそれは別の話。
 
そのように、本橋信宏の本の中では、テリー伊藤の存在が見え隠れするのだが、彼について正面から書ききった本は未だ出ていなかった。
というのも、この本の中でテリー伊藤自身が語っているのですが
「いいんですよ、おれのこと知らなくても。墓石もいらないぐらいなんだから」
と言うぐらい、あんなにはちゃめちゃに見える人なのだが、実は目立つことが嫌いな非常に繊細な人物なのだそうだ。
 
しかし、そんなテリー伊藤伝説をついに真正面から書ききったのがこの本。
そんな本だから、内容はどこもかしこも面白いし、驚く話ばかり。
あらゆるところに衝撃の事実があったり、絶対に今ではやれない、やってはいけない、企画やネタばかりで心底震えてしまう。
 
例えば、元気が出るテレビ以前の番組は本当にひどくめちゃくちゃだ。
なんの安全の保証も無いのに、トラの荒れた唇にリップクリームを塗る。巨大なワニに巨大な歯ブラシで歯磨きをする。マムシが4千匹泳ぐプールで一緒に泳ぐ。など。
大怪我してもおかしくないし、なんなら死者が出てもおかしくない。
たこ八郎に東大生の血を輸血したら頭が良くなるのか。という実験をして、協力した医師も含め大問題になったという事件もあった。結果たこ八郎は賢くはならなかった。
さらには、ここでは書けないようなもっとひどい企画が満載で、ほんとにこれをテレビでやったのかと疑いたくなる。
 
元気が出るテレビをやっていた当時のエピソードもしびれるぐらい面白いし、江頭グランブルーの最終回、奇跡の4分潜水の裏側が本当に鬼気迫るもので、読んでいて恐ろしい。
テレビで夢中になって見ていたが、まさかあんな事になっていたなんて、と今更ですが背筋が寒くなる。少しだけ書くと、実はあの時、2分20秒ぐらいから意識がなかったらしく、死はほんの目の前にあったらしい。
 
数々の伝説的な企画の裏話だけでもとんでもなく面白いのだが、やはり新しい企画を考えるテリー伊藤の天才的発想力についての話が非常に興味深い。言ってみれば今のバラエティ番組の企画の全ては、ほぼテリー伊藤がすでにやっている、という事実がこの本を読むとわかってしまう。
 
また、テリー伊藤の元で働いていた、彼を語る人たちにも注目して欲しい。
電波少年のプロデューサーとして注目を集めた土屋敏男。イッテQ!などを制作する会社の代表取締役の岡崎成美。テリー伊藤に拾われて彼の元で働いていた加藤幸二郎は日本テレビ情報・制作局長まで上り詰めた。そして高橋がなりもいる。
 
彼らはみな、テリーさんはひどい人なんです、めちゃくちゃだったんです、といいながらも、自らの青春と重ね合わせてテリー伊藤のことを愛情を持って語る。
そこに、テリー伊藤の持つ人間力があったのだと思うのです。
 
本書の中でも言及されていますが、テリー伊藤の笑いはめちゃくちゃなんだけど、どこかに哀愁があったと。そして、笑いのことしか考えていなくて、笑いのためなら何をしてもいいという突き抜けた狂気的な思想があったと。
 
テリー伊藤自身もこの本を読んだ感想として
「本当に胸が痛くなってくるんだよね。かんべんして。助けて。」と言う。
周りの人を沢山傷つけてきたし、配慮がたりなかった。この本に書かれているような強い自分じゃない。本当は繊細で弱かった、怯えていた。と彼自身は語ります。
 
あの時代だから成立したけど、今は絶対に無理なテリー伊藤の生き方。
私自身も、これを良しとは思いません。多分ほとんど駄目だと思います。
一歩間違っていれば、の連続です。
 
でも、その中で生まれた笑いや奇跡は実際にあったものです。
そのあったものの記録として、非常に貴重な本だと思います。
 
賛否両論あるにせよ、これは読んでおいて損はない一冊です。
 
いや、読むべき一冊と言ってもいい
あの頃大笑いしてテレビを見ていた
僕やあなたにとって

 
 
 
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