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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.290『JP-34』松江泰治/月曜社

蔦屋書店・江藤のオススメ『JP-34』松江泰治/月曜社
 
 
今回は、文章で紹介するのが難しいのですが、写真集を皆さんにお勧めしたいと思っています。
松江泰治さんという写真家をご存知でしょうか。
ご存知ない方は、早速グーグル先生を使って検索してみてください。検索結果がでたら「画像」というボタンを押してみてくださいね。出てきた写真を見ていると目がくらむ、もしくはなんだかざわざわしてしまう人もいるかもしれません。そこには色々な写真が出てきますが、圧倒的に多いのは町を上空から撮影した写真でしょう。小さいままだと本当になんのことかわからないかと思いますので、ぜひその中でも気になった一つをクリックしてみてください。
 
どうですか?
 
なんだか不思議な写真だと思いませんか?一体何が不思議なのでしょうか、それには理由もあるのです。
 
今回紹介する写真集『JP-34』ですが、この意味ありげな記号はなんでしょう。JPはなんとなくわかるかもしれません。そう、JAPANです。
では、34は?
 
日本には47の都道府県があります。都道府県には都道府県番号というコードが付いています。その中の都道府県コード01はどこかというと北海道なんです。そうなると、なんとなく34というのはだいぶ西側かなと思いますよね。そう、JP-34というのは、広島の都道府県コードです。
 
この写真集は、広島の街の様子を上空から撮った写真集なのです。なぜ、松江泰治さんが題材として広島を選んだか、私はなんとなくそれが正解かどうかはわかりませんが推測してみました。広島には原爆で一度焼け野原になったという歴史的事実があります。もちろんその前の広島にもそれは日本のどこにだってそうだと思いますが、人類が誕生する前の地層も隠されています。その上にあらゆる年代が積み重なって、でも原爆ですべてが焼き尽くされて、そしてその上にまた新たな地層としての町ができます。そうやって広島には他の都市とはまた違った時間の重ね方が生じているのだと感じます。
 
その広島のある時を上空から撮影することは、その土地のある一点の時代を切り取るだけではなく、その奥にある地層となっている歴史をも覗く行為であるのではないかと思うのです。私は、松江泰治さんが広島を撮影地として選んだのはそのような意図があったのではないかと感じています。
 
また、それだけではない写真としての技術的な面白さも、松江泰治さんの作品には隠されています。先程案内したネット上に上がっている写真の細部を見てください、特に四角く切り取られた写真の隅の方まで。カメラのレンズというのは曲面です。光を最大限に集めて写真に焼き付けるためには曲面のレンズを何枚も使って屈折させなければなりません。何枚もレンズを使う過程では、どうしても見える画像に歪みやにじみが出てしまうので、それを少しでも低減するよう各レンズメーカーは苦心しているのです。
 
その観点から松江さんの写真を見てください。驚いたことに隅の隅まで、全く歪みがないのです。これだけ広い範囲を撮った写真で全く歪みが無いというのは驚異的です。さらに、この写真をよく見ると、これだけ広大な範囲ですが、ほぼ全範囲に渡ってピントがあっているのです。カメラ好きの人にはすぐ通じると思うのですが、その被写界深度の深さです。被写界深度が浅ければ、ピントの合う範囲が狭いということなので、後ろをぼかしたような写真が撮れますし、被写界深度が深ければピントの合う範囲が広いので、画面全体にピントが合う写真が取りやすくなります。おそらくこの写真は広い範囲を撮っていますので、被写界深度の深い広角レンズで撮っているのではないかと思います。しかし、広角レンズというのは、画面の端に歪みが出やすくなってしまいます。ただ、この写真には全く歪みがありません。
じゃあ、一体どうやって撮っているのか、私には正直全然わかりません。
広大な景色の全てにピントがあっているので、この写真には遠近感も感じられません、まるで精巧なミニチュアを撮っているような不思議な風景になっているのです。
 
さらに、松江さんの写真には不可解な点があります。
特に『JP-34』で撮っている広島の町のビル郡の写真とかもそうなのですが、影がほとんど映り込んでいないのです。なぜか松江さんの写真には現実感が無いように感じるのですが、その原因の一つが影が写っていないというところだと思います。
これは、とあるインタビューで読んだのですが、あえて影を写さないようにしているそうです。では、どうやっているのかというと、この場所で写真を撮るとすると、もっとも影ができない時間と角度を選んで、そのタイミングを測って写真を撮っているそうです。意識して見ないと影がないというのは気が付かないかもしれませんが、なんとなく違和感が生じる原因はおそらくこれです。
もう一つ言うと、中には人や電車なども写っている写真があるのですが、それらはほとんどぶれていなくて、まるで時間が止まったようにきれいに写っているのです。動いているはずのものがぶれることなく写っているのも、気づかないかもしれませんが違和感に繋がっているのかもしれません。
 
というふうに隅々まで見れば見るほどこの写真の凄さがわかるのですが、そんなに技術的な凄さを噛み締めなくても、ただ眺めていてもこの写真は見れば見るほど面白いのです。
 
そして、私も住んでいるこの広島をこんなふうに切り取るんだという楽しさにも満ち溢れています。知っているはずの広島が全然違う表情を見せますし、見たことのない広島も見ることが出来るのがこの『JP-34』という写真集です。
 
みなさん
私のくだらない解説を読んでいるぐらいなら
早くこの写真集を手に入れて
ゆっくりのんびり詳細に眺めてみることをお勧めします。
 
 
 
 

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