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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.244『その本は』ヨシタケシンスケ・又吉直樹/ポプラ社

蔦屋書店・野津のオススメ『その本は』ヨシタケシンスケ・又吉直樹/ポプラ社
 
 
『その本は』はお笑い芸人で芥川賞作家である又吉直樹さんと、大人気の絵本作家のヨシタケシンスケさんのお二人の「その本は」で始まる短編集です。
 
ヨシタケシンスケさんのファンである私は、まず表紙の帯のイラストに惹かれ、あの又吉さんとヨシタケさんの共著であるこの本を読まずにはいられませんでした。       
 
この『その本は』の始まりはこうです。
 
本の好きな王様がいました。王様はもう年寄りで、目がほとんど見えません。王様は二人の男を城に呼び、言いました。
「わしは本が好きだ。今までたくさんの本を読んだ。たいていの本は読んだつもりだ。しかし、目が悪くなり、もう本を読むことができない。でもわしは、本が好きだ。だから、本の話を聞きたいのだ。お前たち、世界中をまわって『めずらしい本』について知っている者を探し出し、その者から、その本についての話を聞いてきてくれ。そしてその本の話をわしに教えてほしいのだ」
 
旅に出たふたりの男は、たくさんの本の話を持ち帰り、夜ごと交代で「その本は」で始まる本を王様に読み聞かせます。
その本を又吉さんとヨシタケさんのお二人が一晩ずつ交互に書かれています。
 
第1夜からどんどん読み進めて、夢中であっという間に読んでしまいました。
 
特に印象に残っているのは、第7夜の「その本は、誰も死なない。」
小学5年生の岬真一と竹内春の交換日記から成る愛おしくて切ない物語です。
はじめは大喜利のようなくすっと笑える交換ノートでした。これは芸人である又吉さんならではのさすがのセンス。しかし、春が家庭環境を語り始めたころから状況が変わって行きます。恋する気持ち、寂しさ、苦しさ、そして、少しの希望を感じるストーリーです。この章を書いた又吉さんの優しさを感じずにはいられません。
 
ヨシタケさんの作品である、第8夜の「その本は私の顔写真が表紙になっていた。」もお勧めです。
男はある日、本屋さんで自分の顔が表紙になっている本を見つけます。その本には自分の個人情報が全て書いてあります。自分が表紙の本を見つけた時の恐怖が、その3か月後にもっと恐ろしいことになるのです。…が、この結末大好きです!そうだよねー。って思ってしまいます。またヨシタケさんのイラストが秀逸なので、ぜひ見て欲しいです。
 
第9夜の「その本は、まっしろである。」も感動作です。
結婚式のお話なのですが、こちらも温かく優しさが溢れています。お酒を飲みながら読んだ私はちょっぴり泣いてしまいました。
 
そして最後のエピローグは、「やっぱり!」と思うか「えええ!!」と驚くか。しっかりオチがあるところがまた良いんです。さすがだなあ。
 
装丁も凝っているので、ぜひ見てください。
ページをめくると紙に染みがあったり折り目があったり、ちょっと古びた感じが演出されていて、それだけでも本棚に置いておきたいって思ってしまいます。また、又吉さんの章はそれぞれ文字の大きさやフォントが異なっており、それぞれが別の本であるという演出もされています。

 
そんなところにも本好きの拘りが見られて、この本を大切にしたいと思わされます。
そして、読み終わった後に、「やっぱり本って良いな。」「本が好きだ。」と感じずにはいられませんでした。
 
一気に読んでしまったので、次はゆっくりゆっくり、1夜ずつしっかりと味わって読みたいです。
 
 
 
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