広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.195 『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』畠山理仁/集英社
蔦屋書店・丑番のオススメ『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』畠山理仁/集英社
優れたノンフィクションは現実の問題を明らかにする。見落とされがちな問題を。優れたノンフィクションは現実に引かれた補助線のようなものだ。こんなところに線を引いてだいじょうぶなの?と、思って読みすすめていると、あら不思議、問題の実相が浮かびあがってくる。でも、そんな魔法のようなノンフィクションは、ほんの一握りだ。
今回紹介する『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』は、そんな一握りの優れたノンフィクションだ。とりあげる題材は「選挙」。そこに「泡沫候補」という補助線を引く。
「泡沫候補」とは「立候補しても、とうてい当選する見込みのない候補者」という意味を持つ言葉だ。著者はその呼称が気にいらないとして以下のように書く。
「泡沫候補」とは「立候補しても、とうてい当選する見込みのない候補者」という意味を持つ言葉だ。著者はその呼称が気にいらないとして以下のように書く。
私は彼らを「何者にも頼らない無頼派」だと思っている。頼りたくても孤立無援で頼るものがいない場合も多いが、彼らは自分の力を信じている。ひるむことなく社会の常識に立ち向かっていく。だから私も敬意を表して彼らを「無頼系独立候補」と呼んでいる。
本書はそんな無頼な人々に焦点をあてたノンフィクションである。勝つ見込みのない選挙に高額の供託金を払って出馬する。その動機はいったい何なのか。家族に黙って出馬する候補者や供託金を何年も貯めて出馬する候補者もいる。出馬してもポスターを制作する費用もなかったり、まともな選挙活動ができない候補者もいる。それでも彼らは出馬する。売名が目的なのか。それとも社会を変えようと思っているのか。それぞれの人物に対する興味がこのノンフィクションの読みどころのひとつである。
さらに、それを超える魅力が本書にはある。それは、泡沫候補を通して選挙制度を眺めると、制度の問題点や課題が浮かび上がってくるところだ。
主要候補、泡沫候補の線引をするのは誰なのか?
高すぎる供託金は誰のためのものなのか?
各候補者の政策比較ができるような仕組みが整っていないのはなぜなのか?
高すぎる供託金は誰のためのものなのか?
各候補者の政策比較ができるような仕組みが整っていないのはなぜなのか?
著者は、泡沫候補が選挙にでる理由を、実現したい政策があるからだという。やりたいことがあるから、負けるとわかっている選挙に出馬する。自分の政策を世の中に訴えたいから。選挙に負けても有権者が政策の意義を理解してくれるのではという期待があると。さらに、著者は以下のように書く。
自慢の政策が他候補の手によってでも実現されるのであれば、立候補した意味はあるはずだ。
つまり立候補はゴールではなく、より良き社会を作るためのスタートだ。自身の政策を世に訴え、そこから政策のブラッシュアップが始まる。「この政策にはここが足りない」「この政策はこうすれば実現できる」そんな議論を巻き起こし、世の中のために提供する。私がすべての候補者を「公共心にあふれた義勇の志士」と呼ぶのは、ここにも理由がある。
つまり立候補はゴールではなく、より良き社会を作るためのスタートだ。自身の政策を世に訴え、そこから政策のブラッシュアップが始まる。「この政策にはここが足りない」「この政策はこうすれば実現できる」そんな議論を巻き起こし、世の中のために提供する。私がすべての候補者を「公共心にあふれた義勇の志士」と呼ぶのは、ここにも理由がある。
このような見方に立つと、選挙制度の中で、当選者を選ぶという行為は、制度の中のひとつに過ぎないことがわかる。選挙制度とは、候補者・有権者それぞれが、より良い社会を実現するための手段なのだ。
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