include file not found:TS_style_custom.html

広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.196 『言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』川添 愛/東京大学出版会

蔦屋書店・犬丸のオススメ『言語学バーリ・トゥード: Round1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』川添 愛/東京大学出版会
 
 
コース料理の途中に出される「お口直しのシャーベット」。さっぱりとしたシャーベットが、口に残るこれまでの料理の味の記憶を消し、なおかつこれから立ち向かうメインディッシュへ新たな食欲を掻き立ててくれる。しかも、コース料理を食べ終わった後には、あのシャーベット、美味しかったなと記憶に残る。
本書の「この本を手に取ってくださった皆様へ」と題したまえがきのなかで、著者の川添さんが自らの連載を「お口直しシャーベット」程度の位置づけと、表現されている。
確かに本書は、料理(読書)と料理(読書)に挟む、「お口直しのシャーベット」に似ている。食べ(読み)終えてみると、さわやかな味わいが口(脳)内をリフレッシュしてくれる。眉間に力が入ってしまう、脳をフル回転させて読み解くような濃い味の本を読んだ後などの息抜きにおすすめしたい。
つい、口元が緩む。
お口直しならぬ、お脳直しのような一冊だ。
 
内容はといえば、10数ページのエッセイが16本、気軽に好きなところから読める。タイトルにもあるが川添さんは、言語学が専門なのでその要素がスパイスのごとく効いている。
バーリ・トゥードとは、ポルトガル語で「何でもあり」という意味の、ルールや反則を最小限にした格闘技の一ジャンルなのだが、まさに言語学者のなんでもありエッセイ本なのだ。
とはいえ、読み手は「へえ」とか「ふむふむ」とか「ああ、たしかにそうね」とかの相槌を打ちながらニヤニヤとすればよし。お笑いとプロレスの話題多めなので、そのエピソードを知らなければ、片手でYouTubeを検索しながら読めばなおよし。
 
第2章「AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか」。
ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが熱湯風呂の縁で「絶対に押すなよ!」と言う。文字通りの意味は「押すな」だか、意図としては「押せ」。意味と意図が正反対となっている。この意味と意図のずれは日常的で、聞き手はすべての意図を読み解くことは困難だが、話し手はといえば意図は伝わっていると思い「分かってくれると思っていた」などと言われたりして、かみ合わず混乱をまねく。
思い当たりすぎて、改めて言葉の曖昧さや不明瞭さに「そうそう。ほんと、そう。」と強めの相槌を打つ。
この曖昧さを人は文脈や常識などから意図を推測するのだが、AIは文字通りの意味の奥にある意図を推測できるようになるか、と、言うのだ。
この章は、川添さんが以前に出版された『自動人形の城(オートマトンの城)人工知能の意図理解をめぐる物語』のPRにもなっていて。この章を読むと、「追加で注文、いいですか…。」と言わんばかりに、こっちも買ってしまおうかなと思ってしまう。さすが、言語学者。言葉のプロ、おすすめ上手なのだ。
他にも、4章のユーミンの名曲『恋人がサンタクロース』を、なぜ『恋人はサンタクロース』と勘違いしてしまうのか。6章では宇宙人とは言語を通して「分かり合える」のかなど、どの章も、同じシャーベットでもしっかり味を変えて提供されるので次々といけてしまうし、飽きない。それどころか、どんどん美味しくなってくる。
 
川添さんの専門は理論言語学で、日本語の文法および意味理解の研究をされているそうだ。言語学者と聞くと、やはり言葉に厳しいのかなと思ってしまうが、11章では変な文章をあくまでポジティブに「愛でる」という、新しい娯楽を披露している。
日々、新しい言葉や言い回しが出てくる。わからなければ、コミュニケーションにも不具合が生じ、トラブルの元となることも多い。ただ、そこでその言葉に興味を持ち、深掘りすることで、おもしろみまで感じること。
言葉についてもっと知りたくなる、後味のよい一冊なのである。
 
 
 
【Vol.194 蔦屋書店・佐藤のオススメ 『クマのプーさん』】
【Vol.193 蔦屋書店・竺原のオススメ 『アメリカの<周縁>をあるく』】
【Vol.192 蔦屋書店・江藤のオススメ 『出禁の男 テリー伊藤伝』】
【Vol.191 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『計算する生命』】
【Vol.190 蔦屋書店・丑番のオススメ 『土偶を読む―130年間解かれなかった縄文神話の謎』】
【Vol.189 蔦屋書店・竺原のオススメ 『ミズノ本』】
【Vol.188 蔦屋書店・江藤のオススメ 『レオノーラの卵 日高トモキチ小説集』】
【Vol.187 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』】
【Vol.186 蔦屋書店・丑番のオススメ 『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』】
【Vol.185 蔦屋書店・竺原のオススメ 『会いたくて、食べたくて』】
【Vol.184 蔦屋書店・江藤のオススメ 『教室の片隅で青春がはじまる』】
【Vol.183 蔦屋書店・丑番のオススメ 『未来人サイジョー①~③巻』】
【Vol.182 蔦屋書店・竺原のオススメ 『永遠のフィッシュマンズ』】
【Vol.181 蔦屋書店・江藤のオススメ 『もうあかんわ日記』】
【Vol.180 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『戦争の歌がきこえる』】
【Vol.179 蔦屋書店・丑番のオススメ 『高田渡の視線の先に ー写真擬ー 1972-1979』】
【Vol.178 蔦屋書店・竺原のオススメ 『文芸ピープル』】
【Vol.177 蔦屋書店・江藤のオススメ 『まとまらない言葉を生きる』】
【Vol.176 蔦屋書店・丑番のオススメ 『一度きりの大泉の話』】
【Vol.175 蔦屋書店・竺原のオススメ 『マスクは踊る』】
【Vol.174 蔦屋書店・江藤のオススメ 『6600万年の革命』】
【Vol.173 蔦屋書店・犬丸のオススメ 『神秘の昆虫 ビワハゴロモ図鑑』】
【Vol.172 蔦屋書店・小野のオススメ 『七面鳥 山、父、子、山』】
【Vol.171 蔦屋書店・丑番のオススメ 『日本の包茎』】
【Vol.170 蔦屋書店・竺原のオススメ 『ノースウッズ-生命を与える大地-』】
【Vol.169 蔦屋書店・江藤のおすすめ 『シリアの戦争で、友だちが死んだ』】
【Vol.168 蔦屋書店・中渡瀬のおすすめ 『サンクチュアリ』】
【Vol.167 蔦屋書店・犬丸のおすすめ 『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』】
【Vol.166 蔦屋書店・作田のおすすめ 『戦場の秘密図書館 〜シリアに残された希望〜』】
【Vol.165 蔦屋書店・丑番のおすすめ 『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』】
【Vol.164 蔦屋書店・竺原のおすすめ 『こいわずらわしい』】
【Vol.163 蔦屋書店・河賀のおすすめ 『幻のアフリカ納豆を追え!ーそして現れた〈サピエンス納豆〉ー』】
【Vol.162 蔦屋書店・江藤のおすすめ 『チ。―地球の運動について―』】
【Vol.161 蔦屋書店・丑番のおすすめ 『「色のふしぎ」と不思議な社会 2020年代の「色覚」原論』】
【Vol.160 蔦屋書店・竺原のおすすめ 『料理と利他』】
【Vol.159 蔦屋書店・江藤のおすすめ 『オール・アメリカン・ボーイズ』】
【Vol.158 蔦屋書店・丑番のおすすめ 『見るレッスン 映画史特別講義』】
【Vol.157 蔦屋書店・竺原のおすすめ 『誰がメンズファッションをつくったのか?』】
【Vol.156 蔦屋書店・古河のおすすめ 『雪のなまえ』】
【Vol.155 蔦屋書店・江藤のおすすめ 『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』】
【Vol.154 蔦屋書店・犬丸のおすすめ 『Pastel』】
【Vol.153 蔦屋書店・神崎のおすすめ 『砂漠が街に入りこんだ日』】
【Vol.152 蔦屋書店・竺原のおすすめ 『Coyote No.72 特集 星野道夫 最後の狩猟』】
【Vol.151 蔦屋書店・丑番のおすすめ 『関西酒場のろのろ日記』】
【Vol.101〜Vol.150 2019年12月2日 - 2020年11月9日】
【Vol.51〜Vol.100  2018年12月17日 - 2019年11月25日】

【Vol.1〜Vol.50 2018年1月15日 - 12月10日】

 

SHARE

一覧に戻る

STORE LIST

ストアリスト