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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.245『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ 加藤かおり 訳/早川書房

蔦屋書店・江藤のオススメ『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ 加藤かおり 訳/早川書房
 
 
非常に説明しにくい小説であるが
この凄さをどうにかして伝えたい。
 
書店員をしていると、様々な本に出会いそして読むのですが、その中でも特に、これはなんとかしてみんなにこの凄さを伝えなくてはという義務感と焦燥感にとらわれてしまうような作品があります。
 
まさしくこの作品こそがそれなのです。
 
しかし、こういう作品だからこそ私は思うのです。できるだけ余計な情報を入れずに読んで欲しいと。
 
ですが、とにかくみんなに知って欲しいのでなんとかうまく紹介できるように頑張ります。
 
作者は、フランスの作家、エルヴェ・ル・テリエです。
彼は、ウリポという文学グループのメンバーでもあります。
ウリポの正式名称は「潜在的文学工房」といって、言語遊戯的なテクニックも使いつつ新しい文学の可能性を追求するグループで、発起人は数学者のフランソワ・ル・リヨネーです。
こう聞くと、ちょっと実験的で意味がわからない文学なのではないかと思われるかもしれませんが、今回の『異常【アノマリー】』に関しては非常に読みやすく(とは言っても単純ではありません)エンタメ小説としてもとても面白いのです。
 
ただやはり、一筋縄ではいかない小説であることは間違いありません。
 
小説の内容にはできるだけ触れたくないのですが、導入部分だけでもちょっと説明しますと。
 
小説のスタートは連作短編のような雰囲気です。たくさんの主人公がいて、その人物について語られるところから始まります。
いくつもの偽名を使い分ける殺し屋の話、売れない作家のとある事件、がんの告知を受ける男、など、それぞれの話はなんの関連性も無いように思えます。
しかし、その後読み続けると、その全員がある飛行機に同乗したことがわかります。
ただ、なにかが変で、おかしい。
そこから先は言わないでおきます。
 
小説を読んで、感動したり、恐怖したり、驚いたり。ただ、それはあくまでも本の中での出来事にですよね。私たちの日常生活を脅かすようなものではない。しかし、それでは済まない何かをこの小説は発している。
 
呪いという概念は、なんとなくはみんな知っていると思います。
では、具体的に呪いってなんだと思いますか。
私は呪いとは言葉だと思っています。
言葉の力はわたしたちが思っている以上に強いのです。
それもただの言葉よりも、それが物語、ストーリーになることで更に強さを増すのです。
 
この小説はジャンルとしては、SFでもありミステリでもあり純文学と言っても違わない。
あらゆるジャンルを巻き込む物語なのです。
そしてこの物語はとにかく面白い。読む人を惹きつける力がとんでもない。
そうやってこの物語を楽しんでいるわたしたちはすでに作者の術中にハマっているのかもしれません。
 
この物語の中で提示される、ある一つの世界の捉え方は非常に不気味で受け入れがたくもあるのですが、読む人の心を捉えて離さないでしょう。
それはこの物語の枠を超えて、私が今生きているこの現実世界に侵食してくるのです。
更にこの小説のジャンルを表現するときに、先程はあえてあげなかったジャンルである、スリラー、いやホラーと言っても差し支えがないほどの恐怖をあなたに植え付けるかもしれません。
 
言葉を超える物語による呪いの力に飲み込まれないように、お気をつけください。
 

ここまで怖がらせるようなことで煽っておいて今更なのですが
この小説本当に凄いです。
今年ナンバー1の衝撃です。
めちゃくちゃ面白いです。
 
この小説を体験しないなんて、読書好きとしてもったいない!
 
 
 
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