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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.247『陰謀論入門-誰が、なぜ信じるのか?』ジョゼフ・E・ユージンスキ 北村京子 訳/作品社

蔦屋書店・丑番のオススメ『陰謀論入門-誰が、なぜ信じるのか?』ジョゼフ・E・ユージンスキ  北村京子 訳/作品社
 
 
数年前には想像がつかなかったことが次々に起こっている。疫病が蔓延し、戦争が起こり、元首相が殺された。先行きが見えない世の中で不確かな言説が飛び交い、SNSを通じたコミュニケーションの中で陰謀論的な思考が増幅されているように感じる。なぜそのような状況になっているのかという疑問が、本書『陰謀論入門』を手に取るきっかけだった。著者はマイアミ大学の政治学の教授で、アメリカの陰謀論研究の第一人者である。学術的な研究をもとに陰謀論について概説されている。
 
心理学・社会学・政治学の研究から得られた知見が整理されていて、陰謀論についての、大まかな見取り図を描くことができた。今後さまざまな本を読む上での軸になるような一冊だと思う。SNSが陰謀論を加速させているのでは?というわたしの疑問に対しては、そのファクトは、今のところ、無いと書かれている。印象論でなく、実証的な研究をもとに記載がされている。それが、研究者によって書かれた本の良さだと思う。
 
本書から得られた最大の気づきは、自分自身も陰謀論的な思考にとらわれている可能性があるということだ。陰謀論というと、突飛な例がよくあげられる。例えば、爬虫類型宇宙人陰謀論。これは、古代から続く爬虫類型宇宙人による影の政府が、世界を操っているという、荒唐無稽な説だ。この説は、本書『陰謀論入門』での陰謀論の定義=「有力な個人からなる少人数の集団が、自らの利益のために、公共の利益に反して秘密裏に行動した/行動している/行動するだろうという、信頼に足る証拠なく対象を非難する認識」にまさに、合致する。
 
この定義の「少人数の集団」に、「爬虫類型宇宙人」ではなく、別の集団を当てはめてみたら、どうだろうか。自分がよく思っていない集団に対して、「信頼に足る証拠なく」陰謀を行っていると、レッテル貼りを行っていないだろうか。
 
アメリカでの研究として、共和党支持/民主党支持という支持政党の違いによって、相手の成功を陰謀論として捉えやすい傾向にあることが示されている。つまり、民主党支持者は2016年のトランプの当選を陰謀として考え、共和党支持者は2020年のバイデンの当選を陰謀として考える人の割合が有意に高いということだ。そこに確かに陰謀があったのだという人もいるだろう。それに対して、著者は、それは陰謀論にすぎないという。なぜなら、司法機関によってその事実が認定されていないからだという。陰謀論への向き合い方については、以下のように書かれている。
 
「適切に構成された認識論的権威による説明を信じるべきであり、(1)認識論的権威と真っ向から対立する説、(2)認識論的権威からまだ信頼できるというお墨付きをもらっていない知識を主張する説には、耳を傾けるべきではないということだ。ある陰謀論の内容は、それがほんとうだという可能性があるが、相応の認識論的権威が真実であると判断するまでは、それを信じることは正当化されない。」
 
世の中でさまざまな事件が起きる。それを説明するさまざまな言説が溢れる。自分がもともと持っていた価値観に合うストーリーに安易に飛びつくのではなく、そこに「信頼に足る証拠」はあるのか?と問いながら向き合っていくことが重要だと思う。
 
 
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