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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.199 『正しい暮し方読本』五味 太郎/福音館書店

蔦屋書店・佐藤のオススメ『正しい暮し方読本』五味 太郎 /福音館書店
 
 
ひと目でそれと分かる、個性的な作風。
 
日本で最も有名な絵本作家の一人である五味太郎さんは、これまで450冊を超える作品を発表してきました。
『きんぎょがにげた』は累計240万部、『みんなうんち』は110万部を発行。
8冊の本がミリオンセラーを記録しています。本以外では岡山のきびだんごのイラストでもお馴染みですね。
この秋には、『きんぎょがにげた』の続編とも言われる、新刊『ひよこはにげます』が上梓されました。
 
五味太郎さんの絵は、もはや現代の日本人の深層心理の領域に属し、きっと何らかの「良きもの」を広く我々の精神にもたらしてくれている、そのような気さえします。
 
今回ご紹介する『正しい暮し方読本』は絵本ですが、大人も思わずじっくり読んでしまうような、量質ともに充実の内容の一冊です。
ストーリーものではなく、「正しい暮し方」についての項目が、各ページごとに掲げられています。いくつか挙げてみましょう。
《正しい買物のしかた》
《正しいゴミの分け方》
《正しい魚の食べ方》
《正しい象の見方》
《正しい「正」の字の書き方》
《正しいカカシの作り方立て方》…
 
全部で33項目あります。
 
その内容ですが、例えば《正しいお弁当のあり方》には、イラストとともに、以下のような説明が添えられます。
 
《たいていのおかあさんはお弁当をつくるのがすきです。
いろいろ工夫してかなりがんばってつくるものです。
しかし、そうやってつくられたお弁当は、「おいしいお弁当」「素敵なお弁当」「楽しいお弁当」「栄養のあるお弁当」ではありますが残念ながら「正しいお弁当」と呼ぶわけにはゆきません。
「正しいお弁当」とは、となりの人が見て、「あ、なんだかそっちのお弁当のほうがおいしそう…」とか「すこしとりかえてくれないかなあ」などと思えるお弁当のことです。
お弁当には昔から、そのような見方をされる運命があります。…》
 
このように「正しい暮し方」といっても、この絵本で示されるのはもちろん五味さん流の「正しさ」。
かなり個性的です。
どの項目にも共通するのは、軽やかで自由な気分に溢れたユーモアと、そして、誰かが決めた常識や善悪にとらわれずに自分の頭で「そもそも」から考える姿勢。五味さんの作品すべてを貫くスタイルです。
 
今まで何度も目にしてきた、親しみ深い五味作品。
でも五味さんの絵本を読んで「うんうん、いつものあの五味太郎ね!」と、すいっと読み流すだけでしたら、それも良いのですが、でも少しもったいないような気もします。
独創的で、ユーモアたっぷりの、たまにドキリとさせられる鋭い視点。
そんな作品を生み出す源に興味はありませんか?
五味太郎さんは一体どんな人なのでしょうか。
 
五味さんは、ご自分の考えを非常に明確にお話になる方です。
以下、子どもをめぐる社会のあり方について著したエッセイ『大人問題』(講談社社文庫)の中の言葉をいくつかご紹介します。

《この国のキーワードは「そういうことになっている」というやつです。PTAの話をしていても予防接種の話をしていても町内会の話でも、「ちょっと変だな」「なんで、そうなるの」なんて思って質問すると、だいたい担当者は「そういうことになってるんですよね」と言います。》
 
《社会における平均的なパターンという中で、みんなが汲々としているようです。「平均地獄」という感じです。…「人それぞれの事情がある」ということを、これほど無視する社会も珍しい。また、人それぞれの事情を社会の事情にすぐ置き換える人がこれほど多い社会もまた珍しい、そんな気がしています。》
 
《「全体が動くことが大事だろ」と言われたら反論できないような、重たい重たい文化の中で、「個」がとってもしんどい思いをしているのを感じます。》
 
ラジオやインタビューでも語られる、こうした五味さんのお話から伝わってくるのは、「私たちは、自らの一個人としてのあり方を大切にする権利がある。全体のために個人が存在するのではない。」という信念であり、願いです。
 
みんな、学校や社会の中で「反応」すること、つまりそこで求められることに沿った対応をすることの訓練ばかりさせられて、その結果、自分の頭で考えるという基本的なことができなくなってしまっている。
「そういうものだ」と思考停止し、考えることをサボって、あるシステムの中で追い詰められる人がいることも見ようとしない。
特にそんな大人が子どもを損なっていく今の状況を、五味さんは怒りをもって指摘しています。
 
自分が感じ取ったことを、自分の頭で考えて、そして自分のことばで話す。或いは、誰かが決めた常識をそのまま当てはめるのではなく、自分の目で見て考えたことを元に、対象を理解する。そうしたあり方を、五味さんは、「そこに1人の個人的な個人がいる」と呼びます。
 
きっと「主張する人」というより「体現する人」なのだと思います。
「1人の個人的な個人」として生きることを、五味さんは、自らのスタイルで絵本を作ることで、ひたすら身をもって示します。
同朋である子どもたちに向けて。そしてかつて子どもだった人たちに向けて。

五味さんの作品は、いつも自由で飄々としていて、押しつけがましいところがありません。
なのに時折、何かを突きつけられているような気持ちになることがありました。
それがずっと不思議でした。
 
先ほどの『正しい暮し方読本』、ある小学校の先生によると、この本を読みながら、「やっぱりそうだと思った」と話す子どもが何人もいるそうです。
面白いなあ、と思います。
 
 
 
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